失策と展望
「世界的な金融不安の渦にはまりこんで、数々の失策が積み重なってしまいましたね。」
『景気が後退し、先行きの不安材料ばかりが目につくでしょう。』
「まずもって米は大丈夫なの?」
『このまま何も手を打たなかったら、国産米の確保はむずかしいです。』
「余っているぐらいだから心配なさそうなんだけど。」
『やがては、あちこちに耕作放棄の田んぼがでますよ。』
「後継者がいないということですか。」
『そういうことです。安全性も含めた米の値段を耕作者に保障していかないと減産は確実です。』
「日本の米作りは、もともと大規模経営には向いていないという事情がありますよね。」
『そうなんです。一見効率がよくないようで、実は小口の耕作者が日本の米を支えてきたんですよ。』
「ということで、農業政策は失策であったと。」
『貿易の不均衡を農作物で帳尻あわせしてきたんですから、駆け引きとしては分が悪いな。』
「産業別に均衡をとっていく施策にしないと展望はないと。」
『技術を蓄積してきた日本は、利潤のあげ方を変えないといけない。それが可能な部門はたくさんありますから。』
「工業生産物を売り込むために農業生産物を買い込みたくてもやがては無理でしょうね。」
『農業生産物に対するしわ寄せは、結局税金で補っていたんです。』
「農業にしても、水産業にしても、安いものを買いあさってきたのですから、行き詰まるかもしれない不安定さは避けられないんですね。」
『そこが、工業生産物と大きく違います。長い目で見れば、資源の枯渇という点で共通します。』
「長期的な資源の循環を生産分野ごとに予測して確保しないといけないですね。」
『コストの違うもので帳尻あわせするのではなく、安全や安定も含めたコストと見るべきです。』
「なるほど。次なる失策は年金かな?」
『これはもう怠慢です。将来設計をしないで、どんぶり経営をした結果ですから、国が責任を持つしかない。』
「といっても結局、みなさんのお金で始末つけるわけでしょ。」
『そうなんです。自転車操業が火の車にならないうちにお金の出入りを調整するしか打つ手はない。』
「これはもう人為的な怠慢ですね。」
『責任の重さが分かっていればいいのですが、何とも心許ない。』
「次なる失策は、雇用ですね。」
『規制緩和はよくない方向に利用されてしまった。』
「ワークシェアリングでうまくいったはずなのに、正規雇用の歯止めが外れていましたね。」
『雇う方はおいしい話だったでしょう。』
「一見コストが下がったようでいて、実は社会保障にすり替わったような感じですね。」
『安定な雇用を確保できない使い捨ての社会は長続きしません。確実に生活に困る人が増えます。』
「働く人の問題は、同時に使う方の問題にも直結すると思うんですが。」
『団塊の世代の定年で話題にしておきながら、正規雇用が減少したために陰に隠れました。職場単位の年齢構成のアンバランスは長い目で見ると困ることです。』
「30代から40代前半が極端に少ないところは結構あるでしょうね。」
『年功序列が緩やかに変化し、アンバランスに気づいていないかもしれませんよ。』
「仕事の要件と年齢は深い関係にあるとは思えませんが、実力主義なら影響は少ないのではないですか。」
『後継者を育てる経験者は、年齢と関係するんです。』
「すべての職種ということにはなりませんが、10年、20年と経験を積み重ねた人は多くの後輩を育てていますね。」
『短期的な市場原理だけにとらわれず、長期的な策略を持つことで雇用の確保はできるはずです。』
「こうして振り返ってみると、あちこちで歯車がぎくしゃくし、不安ばかりあおっているのはよくないと。」
『よくないです。富の分配を巡ってもめごとや貧困が起こってきた歴史に学ぶところは大きいでしょう。』
「ということは、現状が格差の許容範囲を超えてきていると。」
『仕事を分け合って、生産活動を維持する転換期にいると思いますよ。』
「低コスト、大量生産、大量消費の時代は終わったようで、終わっていない。中途半端に見えますね。」
『そこを早々とのりこえた事例を見逃さないことです。マスメディアの責任も大きいと思いますよ。展望を先取りしないと方向転換は進みません。』