謝罪

「謝罪会見が続きましたね。」

『芋ずる式に次から次へとよくもまあやってくれています。信用は落ちるところまで落ちていますよ。』

「テレビを眺めていて、謝罪会見にしては何か変ですね。」

『もうこれ以上落ちないところまできているから、謝罪にはなってないですよ。』

「そうなんです。この人、だれに謝っているんだろうと思っちゃいますね。」

『謝る相手を意識してないから、過ちを犯してしまうことにもなるんでしょうけど、それにしてもお粗末ですよ。』

「お騒がせしましたなんてのは、他人事でしかないですね。」

『責任をとって謝罪しようとする人間は、お騒がせしましたというのは言えませんよ。』

「報道で取り上げられること自体が、世間を騒がせているんですよね。」

『報道関係者に謝っているような場面が多いのは、そういう考えが根っこにあるんです。』

「スポーツ界や芸能界なら、ファンに対して、著しく信頼を損なうような行いがあったから謝るんでしょう?」

『そうです。』

「食品製造なら、消費者に対して、嘘をついたから謝るんでしょう?」

『もちろんです。』

「ルール違反が発覚したから謝るんだったら、とんでもない勘違いだと思うんですが。」

『責任の持ち方が理解できていないんだな。それと、人に操られているような責任者だったら、間違えてもおかしくないですよ。』

「カメラの放列に向かって、深々と頭を下げるポーズには違和感がありますね。」

『マスコミの力を借りて、消費者やファンに謝るんだという気持ちは伝わってきませんよ。』

「この人たちはいったいだれに謝っているのだろうという説明がないからなんですね。」

『マスコミはとんでもないことだと騒いでいるだけで、マスコミに直接迷惑をかけているわけじゃないですよ。』

「真相追求をすることが、消費者やファンを代弁することになると、むきになる記者がいるのも変ですね。」

『意図のあるなしにかかわらず、不正をしてしまったことで、どのように迷惑をかけたか、責任者であるトップは冷静に判断すればいいんですよ。』

「そうですね。例えば期限を偽ったのなら、まず、消費者を欺いたことになりますよね。そして、監督官庁の法令違反をしたことになりますから、司法の裁きを受ける前に反省しなくちゃいけない。」

『それだけですよ。まだあるとすれば、販売を委託している店舗ぐらいかな。』

「社長は指示していないといういいわけも陳腐の極まりだと思うんですけど。」

『指示の有無にかかわらず、だましたことに変わりはない。そんなことに気づかない社長に社長らしさはないですよ。』

「煽られて、口が滑って、ボロが出る。はめられているなと思うと一瞬気の毒にもなるが、やっぱり情けないですね。」

『私は、会社を代表して、消費者の皆様に心からお詫びを申し上げます。これが一番ですよ。』

「後は、真相を解明して、消費者の皆様にお知らせし、二度とこういうことが起こらないようにしますので、許してください。としか言いようがないなあ。」

『だれのおかげで今の自分があるのかわきまえていたら、奇妙な謝罪会見なんてあり得ない。』

「ですね。」

『いたずらっ子をとっちめているような話が大人の世界で出ちゃうといけませんよ。子どものためにならない。』

「きみがやったんだね。」

『ぼくはしていないよ。』

「きみは何をしていたんだ。」

『ぼくは見ていただけだよ』

「とめなかったのかい。」

『ぼくは悪いことしていないもん。』

「見て見ぬふりしていたんだ。」

『そうだよ。』

「だからきみが悪いんだ。」

『何もしていないのにどうして悪いんだよ。』

「何もしていないことが悪いんだ。」

『・・・。』

「ロシアの昔語りとそっくりですね。」

『世にはばかるとろくなことになりません。』