モンスターペアレント

「聞き慣れないカタカナ言葉が登場しましたね。」

『怪物両親ですか?』

「平たく言い換えると、学校に理不尽な要求をする親だそうです。」

『学校に怒鳴り込んでくる親は以前からあったじゃないですか?』

「理不尽なことはなかったです。たいていは、理由がはっきりしていましたね。」

『そういえば、面と向かって先生にいちゃもんつけることはなかったなぁ。』

「ところが、今は違うんですね。先生の権威は落っこちてしまいました。」

『三歩下がって師の影を踏まずなんてのは死語なんだ。』

「今や、三歩前に出てごねまくるですね。」

『常識がないというか、わがままというか、自分のことしか考えてないというか。レッドカードだ。』

「例えば、義務教育は只なんだから、給食代も只にするのが当たり前だとやっちゃうんですね。」

『格安で提供される給食なのに、踏み倒すなんてのは有難みの薄い人だよ。』

「車でぶつかったときに、そんなところにいるのが悪いといちゃもんをつけるのと同じですね。」

『ぶつかった俺は悪くないと駄々をこねるなら、裁判で決着つけるしかないですよ。』

「屁理屈には理屈で対抗しないと・・・。裁判するほどのもめ事かどうかですね。」

『そもそも給食なんてのは、口に入っているものだけ負担していると思うんだが?』

「そうですよ。人件費、施設・設備・備品費、光熱水費はたいていの場合、税金で賄ってます。学校給食法で決めている。」

『しかも全国一律、すべての学校が給食をしているわけではない。弁当のところもあるんだ。』

「さらに、単年度決算だから最後は帳尻を合わせざるを得ない。」

『ということは、だれかが肩代わりしないと決算できないんだ。』

「そう。税金ではなくて内輪の人のお金で食べさせてもらって、踏み倒そうとすることになりますね。」

『情けないことだ。』

「屁理屈に対抗する名案はないもんですかね。」

『屁理屈なのか、筋の通った抗議なのか、まず聞いてみなくちゃ。』

「対応がまずいために文句を言われているのか、責任を果たしたくないからごねているか理解せよと。」

『恐れず、冷静に聞くことですよ。』

「それで、どうもこいつは理屈の通らない無理難題を言っているぞとなったらどうするの。」

『説得して分かる相手なら、はなから屁理屈はこねない。質問で責めるしかない。』

「なるほど。」

『要するにあなたはどうしてほしいというのですか。』

「給食代は払わないから、只にしてくれ。」

『あなたの分を只にしたら、だれが払うことになりますか。』

「教育委員会が払え。」

『教育委員会は払うことにはなっていないと答えていますがどうします。』

「税金で飯くってんだから、先生が払え。」

『おやおや、私が代わりに払ったら、あなたに請求しますよ。そもそも、私はあなたのお子さんの養育者ではありませんので払いません。』

「だれも払わないって言ったら、もういい。踏み倒してやる。」

『そんなことして大丈夫ですか。給食を食べている人みんながお子さんの分を肩代わりすることになりますけどいいですか。』

「だれが文句を言おうと払うつもりはない。」

『それでは、給食費の決算報告のときにそのように説明します。それでいいですか。』

「やれるものならやってみろ。」

『おかしいという意見が出ましたら、当事者のあなたに答弁していただきますがよろしいですか。』

「おれは出席しないから勝手にしてくれ。」

『そうですか。それでは、みなさんからの請求書があなたのところに行くようになりますので、よろしくお願いします。』

「てな具合にうまくことが運べばいいんですが、屁理屈の堂々巡りになるかもしれませんね。」

『シナリオどおりにいかなくても、理不尽に対しては毅然とするしかないな。』

「脅迫はいけませんが、そこそこの脅しも避けられませんよ。」

『逆ギレもときには効果あり。』