豊かさ
「美しい国、日本という声がきこえてきたとき、本当に将来の展望になるのだろうかと気になりますね。」
『現実とかけ離れた言葉からは、明るい展望なんて描けないと思いますよ。あなたは描けますか?』
「描けませんね。そのうえカタカナ英語を連発されてさらに???」
『戦後の日本は、教育に力を入れ、いい仕事により多くの人がありつけるようにして安定なくらしを目指してきた。経済成長が豊かさの象徴になっていた。ところが、この循環は崩れていますよ。どこから崩れたと思います?』
「これまでは、教育が保障されないといい仕事にありつけず、貧困になればさらに教育から遠のいてしまう。いわゆる、差別と貧困の循環を断ち切ることで安定なくらしができるという展望がありましたね。」
『崩れたのは教育ですか?それとも仕事ですか?』
「有能な人材が育たないほど教育が荒廃しているとは思えませんね。それよりも、いい仕事にありついている人が減っているかな。そこそこの金持ちも増えているでしょうけど、仕事にあぶれた人の方が多いと思いますね。」
『教育ではなくて、仕事が問題だよな。効率を上げるために人減らしと低賃金で対応してきた結果ですよ。』
「使える人を残してたくさん仕事をさせる。使えない人は低賃金労働に回る。リストラの波ですね。」
『大学を出てもいい仕事にありつけなくなる事態が平行してますよ。』
「そのあたりから新たな悪循環が始まっていますね。」
『人減らしと低賃金は税収減をもたらし、財政が悪化するんです。倹約では追いつかない。追い打ちをかけるように子どもの数が減り、高齢者が増える。介護と年金の支出が増え、さらに財政は苦しくなる。』
「低賃金といっても中身が話題にならず、正規雇用との差が分かるように話す人が少ないですね。」
『各種保険を抜きにして比べても救われませんよ。』
「そんなときに学力低下の話題がうまく重なってしまいましたね。」
『教育の質が低下しているから、人材不足、能力低下になったと思わせているのが今の状態ですよ。』
「おかしいですね。仕事がきつくなって、人材不足。あぶれた人はその日ぐらし。力が発揮できないのは力がないからではないですね。」
『労働の対価をどう分け与えていくかを問題にするのが当たり前の流れ、方向を間違えていると思いますよ。』
「こんなことでは、本当の豊かさを実感できる人がいなくなってしまいますね。」
『しっかり稼いで金と物と地位が手に入れば豊かだと実感できる時代はとっくに終わっていますよ。』
「お金儲けに成功すれば豊かだと思っても、だれでも実現できることではないですね。一攫千金のあとの不祥事は相変わらず。」
『より多くの人に実感できる豊かさは、昔も今もあまり変わっていない価値観だと思いますよ。』
「安定なくらしをずっと求めてきたということですね。日常の中に豊かさが見えているときはいい。」
『紛争も戦乱もない60年間で平和ぼけという発言もありますが、平和こそ豊かさの土台なんですよ。』
「見失ってはいけないことですね。それと、家族も豊かさの土台になると思いますね。」
『確かに。安定な家族を思い描ける人がどれぐらいいるかですよ。』
「裕福な家族が豊かさを実感できる家族とはならないですね。」
『命が循環するところが家族なんですから、いびつになってしまった家族もどきが増えたと考えた方がいいかな。』
「もどき故に介護、家庭教育、子育て、地域の運営など自前で維持していたことが、依存状態ですね。」
『家族で担っていくことが、核家族となっても補完されていたなら、こんなにまで教育のせいにはされなかったでしょう。』
「やっぱり、捨ててはいけないものを拾い戻すしかないですね。」
『将来を描こうとするとき、仕事、教育、平和、家族を巡っての本当の豊かさを求めていけばいい。』
「物、金、学力の多寡で安定なくらしを求めて仕事を確保しても、支え合う人と巡り合わせなければ豊かさは得られないでしょうね。」
『そうなんです。その中で、労働の対価が将来を保障するように分け与えられればいい。』
「労働の小分けを選ぶのが良い方向になると・・・。」
『国でも企業でも肥大化すると分裂もしくは崩壊する歴史を見据えるといいですよ。』
「豊かさの指標を考えるヒントになりますね。」
『平和である、教育が受けられる、定職に就ける、家族がある、健康が保てる、話し合いができる、老後の保障がある。あなたは何を指標にしますか?』