裏返し

「裏も表もない世界はメビウスの輪ですが、世の中、裏を見なくなりましたね。」

『裏を返してみるとか、表向きだけに騙されないとか、昔からいわれてきていることですよ。』

「時の流れに任せて、お上の旗振りに従うとまずいところに行き着いていることが多すぎますね。」

『農林水産業は最悪の方向に向かっていますし、建設業の後を追うように教育さえも餌食になってますよ。』

「山が荒れ、海が荒れ、田んぼが荒れ、やがては集落が荒れ、人の心まで荒れてしまうと夢がなくなりますね。」

『そういうときにこそ、人のいうことを裏返して見抜いていかなくてはいけませんよ。』

「例えば、世界禁煙デーまでできているんだから、タバコはとことん排除する流れが勢いづいていますね。」

『税源が減っても痛みは地方で受け止めるから、医療費抑制のほうが優先だと裏では考えていますよ。他にすることがあるはずなのに。』

「例えば、景気が上向きのときは箱ものをどんどん作って建設業界を潤せば、景気はさらによくなって債務もすぐ帳消しになると煽っちゃいましたね。」

『一時の泡はすぐ弾けるのが世の中の常。今となっては返すのに一苦労の借金の山だけが残ってますよ。国のいうとおりにやったのに見捨てられたっていう言い訳もおかしいですよ。収支の目論見は鉄則なのに。』

「例えば、国破れて山河あり、国の復興のために木を植えて30年後に夢を叶えましょうと煽っちゃいましたね。」

『長期予測は難しいから、当てが外れても保障はできませんよと知らん顔してますよ。税金の使い方が当を得ていないだけなのに。』

「例えば、捕る漁業からつくる漁業へと旗振りしたものの、担い手の減少は米づくりといっしょですね。しこたま補助金をばらまいて、結局、人づくりの基盤整備はしなかった。」

『流通の部分だけ強化されて、生産者が保護されないとやる気が出なくなるのは自然の成り行きですよ。応分の対価がわたらなかっただけなのに。』

「例えば、英語教育を小学校からしなくては、世界で通用しなくなると煽る人がいるんですね。」

『変ですよ。英語ができなくて困っている人が身近にどれくらいいますか?困らない人のほうが圧倒的に多いんですよ。異文化交流が目的ではなくて、流通のために、外交のために英語がいるだけですよ。日本語を話す人は日本語で考えているのに。』

「あれやこれやと世の中の不都合に対して進むべき道がつくられてきました。でも、よくよく裏を返してみると対策事業でしかないんですね。」

『年々その傾向は強まっていますよ。長期ビジョンを打ち立ててやろうとしても、横やりがあまりにも多すぎる。』

「そんな気の長いことやっていたら、目まぐるしい世の中の変化についていけませんというのはごく一部の人ですね。」

『そうです。お金儲けのために1分1秒を争うような人たちだけですよ。』

「1年後に結果が出る農業、30年後に結果が出る林業、100年後に結果が出る教育。どうも、せっかちな業種の人の声だけが大きくなっていますね。」

『だから、表の焼け具合だけでなく、裏返して、裏まで火が通っているのかなと見定めるんですよ。それでも、中身まで火が通っているかは分からん』

「焼け色はよくても生焼けはごめん被りたいですね。」

『世の中、すべてがメビウスの輪のようになればいいのだが。』