未履修

「何でこんなことになるの?」

『一番の問題は、大学受験の仕組みだと思いますよ。』

「高校も大学も単位履修制のようですけど。」

『名前だけがいっしょで、仕組みはちょっとちがいますからね。』

「大学では学部、学科ごとに取得しなければならない科目単位が指定されていますが、高校も同じじゃないの?」

『ですね。でも、大学では学生が自分の時間割を作るのに、高校はすべて先生がやりますね。』

「どうして?」

『教科担当の先生が学級数の定員に応じた必要最小限で配置されてますから、余裕はあまりないでしょう。』

「だから、生徒自ら選択しようと思っても選択の余地はほとんどないと。」

『単位履修制とは名ばかりで、教育課程で編成された時間数に従って学級ごとの時間割を消化するわけです。』

「高校では、学科や課程の多様化に対応して、柔軟な先生の配置は進んでないんですか。」

『そうなんです。一方では、教育課程の編成に受験の仕組みが大きな影響を与えていますから、進学という成果を出そうとするとごまかすことも必要悪みたいになってしまっちゃった。』

「影響のない教科は、受験に必要な教科にあてがう方がお互いいいと。」

『でも、国が決めたことには反しているんですよね。学習指導要領から逸脱です。』

「話がそれますけど、小中学校では不登校で出席日数が少ないか、なくても卒業させてますよ。」

『単位履修制の考え方からするととんでもない甘やかしだと言う方もいます。』

「柔軟な配慮が、結局は逸脱も容認されることになるんだ。だから、仕組みの問題だというんですね。」

『権限が移されて、幼・小・中・高の教育課程だって教育委員会承認だったのが、届け出るだけでよくなっています。』

「現場が責任を持つようになっているんですね。」

『ところが、部分的に改革が進められると、整合しないところは内部処理ですませてしまったんですよ。』

「不公平感も問題になっていますが?」

『一部を履修していないからといって、大局に変化はないと思いますよ。過去にさかのぼればのぼるほどたくさんの逸脱が発覚します。』

「目先のことにとらわれすぎだと。」

『そうですよ。時間割をすべて点検して、授業実施報告を出させれば指示通りに実施できるでしょうが、そんなことに労力を使ってたら、本末転倒です。』

「基準通り履修したかどうかよりも、子どもたちが育っているかどうかですよね。」

『先ほどの柔軟な配慮の是非が問われているわけです。育っていればいいという方と、授業を受けて育てるのが筋だという方に分かれてしまう。』

「基本ソフトのウィンドウズと同じ状況ですね。」

『外からの攻撃に対応し、安全に使えるようにしようと思うと限りなくシステムが肥大化してますよね。』

「不具合を乗り越えて、肥大化を容認するのか、基本にかえってシステムを新たに構築するのか、分かれ目はいずれやってきますね。」

『教育の世界で言えば、システム管理者が文科省ですから、ここ数年の間、揺らいでいる状況はウインドウズなみでしょうね。』

「リナックスやユニックスという競争相手はいないところが違うようだけど?」

『いやいや、競争相手は諸外国の教育水準ですよ。』

「教育は国の根幹といいながら、目先のことが気になってしょうがないのも変ですね。」

『未履修やいじめでマスコミに煽られながら、本気で救済していかないといけないことは、ごく一部の小さな声でしか語られていませんよ。混迷の時には捨て去るものと残すものを見極めないと痛い目にあうことだけは間違いないようです。』