速さ

「速いことはいいことだ。いらいらしながら待たなくっていいのは最高だね。」

『そうかなあ。せっかちになって気分的に落ち着かなくなったと思いませんか。』

「鉄道、飛行機、高速道路のおかげで目的地が近くなったし、速くなった分安全にも気を使っているんだからありがたいことだ。だから、事故や渋滞がおきたらたまったもんじゃないね。」

『安全が進歩したことは認めます。でもね、ゆっくりお話ししなくなった人が増えたと思いませんか。』

「それよりも、スピードを出しすぎるから事故が起きるという人がいるけど、そりゃうそだ。止まっていても相手が動いていれば事故は起きるし、制限を守っていても周囲の流れをいらつかせて事故を誘発してしまう。スピードが原因ではなくて、スピードをコントロールする人間の技能と機械の性能に見合った判断力が原因なんだよ。でないとレーシングカーのドライバーに申し訳ないね。」

『人間につきもののミスだということも認めます。それにしても時間が余るはずなのに、いらいらしてると思いませんか。』

「コンピュータやデータ通信だって速いことはいいに決まってる。音声はほぼリアルタイムに送ることができるのに、画像を普通の回線でリアルタイムにするには大変な投資が必要になってる。ホントは一度にたくさんの信号が送れたら解決するのに、データ通信の速度が上がることでたくさん送れると言い訳してる。じわじわ速くなるから、いらいらするんだよ。」

『かつて即席麺もスピード競争をしたそうです。1分でできるものも登場したそうですが、売れ行きはのびなかったそうです。待つのに3分というスピードは精神的に落ち着くという結論だということです。これは速すぎてもいけないいい例です。』

「デジタルカメラとフィルムカメラを競争させたらデジカメが勝ってしまいました。でも、画質を同等にすることを条件にしたらフィルムの方が勝つかもしれません。速いことで何かを犠牲にしているからいらいらするんだよ。」

『印刷機やコピー機もずいぶんスピードアップしました。ファクスが普及して、郵便で送るより迅速に処理できるようにもなりました。そのぶん仕事がはかどってゆとりができたでしょうか。速くなったことで情報をやりとりする量は増え、紙の無駄遣いも増えたと思いませんか。』

「ほどほどに速いことがいいことなんだ。ホントはね精神的に落ち着ける速さってのがあるんじゃないの。」

『同感でございます。速くなると即断即決が要求され、些細なミスが取り返しのつかないぐらいの大きなミスに拡大されるだけです。ほどほどのスピードが適度の緊張感と確実な判断を下すと思います。」