居眠り

「ふだん寝付きがよくないのに、午後2時頃、車を運転していると突然おそってくる睡魔には勝てないですね。」

『一番怖い睡魔じゃないですか。ふっと意識がとぎれるようになったら、おしまいです。』

「居眠り運転で事故した人は、どうしてこういう結果になったか記憶にないといいますよね。気がついてみたら病院のベッドの上だったてやつです。」

『事故ったら最悪ですが、会議のとき、おもしろくもない話を一方的に聞くとき、食後のごろ寝のとき、何とも言い難い心地よさに酔いしれるじゃありませんか。』

「そうなんです。うとうととする気持ちよさは、誰しも経験していることでしょう。車の運転中は命取りですけど、できるときに居眠りをするということは、健康面でも、安全面でも効用は大きいと思うんですが、どんなもんでしょう。」

『実直勤勉が売り物の日本で、居眠りは、怠慢、不謹慎、たるみ、もってのほかになってますからねぇ。』

「そりゃ、1時間もグウスカとなると、居眠りを越えて仮眠状態です。でもね、十数分のうとうと、うつらうつらは、我に返るとすっきりするんですよね。」

『居眠りも場合によっては、能率アップになると考えれば大目に見られますか。』

「眠っているときは、もともと体内時計が、90分をサイクルとして、深い眠りと浅い眠りを繰り返していますから、サイクルの切れ目でないときに目覚めると不快ですよね。それが、短時間の居眠りでは何とも爽快な目覚めになるのですから、不思議です。」

『よくいわれている8時間睡眠ってのは90分のサイクルからいうとおかしいわけだ。』

「ナポレオンは3時間睡眠だったていうまことしやかな話があるけど、一応理にかなっているんだ。ただし、居眠りをよくしていたという話も聞いたことがありますね。」

『一生のうちの3分の1は寝ている。確かにそうなんです。それだけに快適な眠りはまじめに考えた方がよさそうです。』

「睡眠時間が長すぎると短命になるという説もありますよね。若かりしころは、10時間ぐらい爆睡して、爽やかな寝起きを記憶していますが、年をとるに従って、早寝早起きになってしまいました。」

『長生きのパターンかな?』

「でもなさそうですよ。何となく、疲労度が激しくなるような動きができなくなっただけのことみたいですね。」

『まあ、動物には寝ているときだけ行う代謝がありますから、寝ないと命にかかわることだけはまちがいないです。』

「居眠り名人とでもいう方がいましたねぇ。」

『会議中にこっくりこっくりのあの方々ですか?』

「いえいえ。話し合い中に完璧にうつらうつらと居眠りしているのに、突然、質問や意見を求められても、ずれることなく、的確に答えていた方がいましたねぇ。」

『熟睡してないと意識が働いているんでしょうかね?不思議な御仁です。』