心地よい音

「デジタル音は偽物だ、詐欺だという話が数年前にありましたよね。」

『人間に聞こえる音だけを商品化したからでした。聞こえていなくても反応しているから、おかしいという主張ですね。高調波、超低周波は聞こえていないけど、トータルに音を構成しているというのはアナログ時代に認められた話です。』

「高度に忠実な音の再生という点ではデジタル音は分が悪そうでしたね。可聴域だけでサンプリングして、ノイズがない、歪みがないとパーフェクト宣言したところでホントかいなと首をかしげた人がいるんですね。」

『マイクは永遠にアナログだし、スピーカーを駆動する電気の流れもアナログです。記憶メディアがデジタルになっただけですから、すべて問題を解決したとは言い切れないんです。』

「変換器の性能、再生装置の性能も影響して来るんだから、問題は簡単じゃないんだ。」

『音に関しては、人それぞれなんです。スズムシの羽音が心地よくいいと思う人がいれば、単に騒音だという人もいます。外国の人にとっては虫の声は虫の音にすぎないそうですから・・・。』

「マナーの部分では、げっぷや咀嚼の音は下品で耳障りだけど、おならの音は気にならないという約束ごとに洗脳されている人がいます。」

『車内放送がお節介でうるさいという人もいますよね。』

「見えない人にとってはありがたい音だから、何でなくすのだ、という声も上がるでしょう。」

『そりゃあそうだ。五体満足で物事を判断したらいかんな。テレビの字幕だって目障りという人ばかりじゃなく、やっとテレビがおもしろくなったという人もいるわけだ。』

「でもね、自動販売機からありがとうございました・・・と聞こえてくるのはサブいと思いませんか?」

『だれもそんな言葉期待してないから、空々しいんだよね。人の手を煩わしているからこそ、ありがたい気持ちになるんで、自分でお金入れて、出てきた商品を自分で取り出して、お礼を言われる筋合いはないもんね。』

「歩く足音とか、戸を閉める音とか、物を置く音とか、場合によっては力がこもっていると感情が乗り移ったようだと思いません?」

『確かに。つま先を上手に使って歩けば静かだし、最後まで手を添えて閉める和風の戸はすぐれている。心が落ち着いていると、たつ音も心地よくなるはずだね。』

「背筋がぞくぞくっとする音を聞く機会が少なくなったような気がしますね。音で考える時間がもっといるのかな?」

『心地よい音は、機械が決めるのではなく、生身の人間が感性で決めたらいいんです。なんてことない、空気の振動を楽しむ世界ですよ。』