仕返し
「やられたら、やり返す・・・何とも凄まじい世の中ですね。」
『多くの人命を奪ったんだから、相応の報復は正当だというんだけど。そもそも何でそうなったのか公式発表はないですねえ。あいつがやったに違いないという確信だけが話されても、そりゃ報復ももっともだということにはなんないしなあ。』
「仕返しが何にも解決しないってのは、人権学習で取り上げてきましたよね。」
『差別されたから、差別し返す。いじめられたから、いじめ返す。殴られたから、殴り返す。ばかにされたから、ばかに仕返す。踏まれたから、踏み返す。殺されたから、殺し返す。少なくとも人権を大切にしようと思ったら、こんなことでは堂々巡りするだけじゃないですか。』
「だから、理由とか、原因とか、不合理とかを問いただして解決してきたんですよね。」
『くやしい、腹が立つ、憤る、やりきれない・・・理性より気持ちのほうが強烈だから、仕返ししないと腹の虫が治まらないわけだ。』
「何でこんなことになったの?という答えは、冷静に、対等に考えを巡らすと、必ずでてくるはずですよね。」
『そうだと思う。でもね、その前提に人はみな死ぬという当たり前のことを客観的にとらえる必要があると思うな。』
「死んだものに対して報いることができるのは、二度と過ちを犯さないという学びだけですよね。」
『事件や事故、戦争がなくならないのは、仕返しに走る安易な憎しみの発散も一役かっているでしょう。』
「もう一つの誤解が、民主主義や社会主義と人権はあまり関係がないっていうことだと思うんですけどね。」
『そうなんです。政治体制の考えと人権は同じ次元ではないことを知っておくべきだと思います。人権が政策によって踏みにじられたことは歴史が証明していますし、政策以前の人間の尊厳にかかわるところだという認識が大切だと思います。』
「仕返しを認めたら、学校も社会もわやになるでしょうね。」
『もっと恐ろしいのは、仕返しさえも抹殺することじゃないの?』