不満と生活必需品

「いつの世にも不満はありますね。」

『社会でも家庭でも不満の種は尽きません。』

「その不満も向かう方向は両極端ですよね。」

『かたや,不満が爆発するとつぶされることもある。』

「そして,不満をバネによくなることもありますね。」

『暴動,一揆と改革,改善は紙一重。』

「昔と今で決定的に違うことが出てきましたね。」

『そうなんです。不満が世論にならないようでいて,突然不満の連鎖がおきるんです。』

「庶民の情報伝達手段が変わったんですね。」

『表に広がらない情報が飛び交う時代です。噂,評判,不満を広めるのに多くの時間と労力を要さなくなりました。』

「大きな変化とはいえ,信憑性がついていくかどうか危ういところがありますね。」

『そういう点では前時代的なところもあるんです。』

「くらしがよくならないのは独裁者がいるからだと煽る人がいる一方,よくする努力が足りないからだと謙虚に反省する人もいるんですね。」

『不満を回避する方法はたくさんありません。不満に応えるか,がまんをさせるかだけです。』

「がまんの幅は広いだけに限度を見逃したら暴走しますね。」

『ですから,自分の力ではどうすることもできないと感じたときが限界です。』

「不満が内向きの状態ならば,世の中に原因を求めず,自らの考えで何とかしようとしていますね。」

『物を担ぎ出せば,境界線上にあるのが生活必需品になります。』

「様変わりしている生活必需品だけに許容範囲は広いままですね。」

『だから不満をおさえやすい。』

「貧しい食生活に気づかないと冷蔵庫,包丁,まな板,食器などいらない人がいますね。」

『風呂だって変わりました。タオルと石けんだけで事足りていた時代を知る人は還暦をすぎています。』

「シャンプー,バスタオルが必需品になっている世代は非常時に生き抜ける知恵は身につけておきたいですね。」

『物が豊富だと不満は募りにくいし,深刻に生活必需品を考える必要性も乏しい。』

「着の身着のまま,食べて,寝て,排泄という極限は非常時に必ずやってきますよね。」

『戦時をくぐり抜けた多くの人がいるから,些細な不満でパニックになることも起きにくい。やがて経験者が身近にいなくなると不満爆発までの時間は短くなります。』

「冷静に考えると身の回りには必需品とはいえないどうでもよい物が氾濫していますね。」

『要は飢餓感を感じにくい状況がずっと続いていることは確かです。下支えが強いと思います。』

「低所得,不安定雇用の不満をだれが下支えしているか闇に包まれていますね。」

『下支えがなければ,失業者,住所不定者が増え続けるはずです。』

「自立しない人が増え続けているともいえそうですね。」

『そうですね。そういう状況に陥ると子孫繁栄に価値を見いだすことさえ必要なくなるのです。』

「ますます不満の種が減りますね。」

『不満が爆発していく半世紀前の状況とは大きく異なります。政治が不在でも世の中が回るのは,あらゆる価値観にとても鈍感なのです。』

「別の見方で価値観の多様化という話もありますよね。」

『本質的に多様化したとは思いません。あふれる物に対して分散しただけです。』

「だから生活必需品が研ぎ澄まされない状況なんですね。」

『不満騒ぎになりにくいとはいえ,将来的な生活の安定さは保障されていません。』

「ひっくり返せば,自立して夢を持てということになりますね。」

『なのに20年30年先を見たくない人が多いのです。』