中山間地の"むら"

「かつてのわが"むら"は何をしていましたか?」

『一番古いのは木炭,お茶かな。小規模ながら葉タバコ,ナシ,ブドウ,ハッカなどがありました。』

「今も残っているのがお茶だけですね。」

『木炭はプロパンガスの登場ですたれ,葉たばこは輸入葉ですたれ,ナシ,ブドウは品種替えできずに販売不振。ハッカは合成ハッカで落ち込み。』

「マッタケも賑わってましたよね。」

『輸入材から害虫が拡散し,松枯れとともに衰退です。あわせて雑木を切らなくなったので,山が荒れていきました。』

「スギ,ヒノキの造林も賑わいましたよね。」

『50年の夢は輸入材によりあえなく消え去りました。』

「でも,米を中心にした食料生産は延々と続いていますよね。」

『食糧管理で保護されていただけです。それだけでは食べていけないから,現金収入を求めて稼いできたんです。』

「こうして振り返ってみると大きなうねりに飲み込まれて空洞化したことがよく分かりますね。」

『流れるままに従っていると消滅のシナリオにどんどん近づいています。』

「"むら"にとっての悪循環をどう断ち切るか思案のしどころですね。」

『一番有望なのは循環型バイオマス"むら"です。』

「言葉だけでは描けない話ですね。」

『まず,太陽光と風力で発電します。』

「安定供給がネックですね。」

『現状では蓄電より蓄熱の方が経費が安いですから,水や煉瓦に熱を貯めます。』

「それだけでは足りないのでは。」

『次に,作った電力でプラントを動かします。木材のペレットはできあがっていますが,もう一歩進めてチップの炭化と木ガスの製造です。これが燃料になります。』

「このプラントは発電に使っている実例がありますね。」

『使用後の灰はまた山に戻すということになります。』

「木材ペレットと電力を売って採算が取れるかどうかですね。」

『設備投資は高額すぎるのが問題。太陽にしても風力にしたも数千万。ペレット製造機と発電プラントでも数千万。』

「それじゃ見通しが立ちませんね。」

『ペレット製造機でも数十万から数百万の開きがあるんです。当たり前のことながら安いのは処理能力が低い。破砕機も同様ですなあ。』

「木質ペレットの市場価格が4〜60円/kgですから,小型機械で1日に500kg製造しても2〜3万の世界ですね。」

『必要なのは趣味人に依存するのではなく,地産地消にしないと循環しないです。』

「そうですね,手広く商いをすると循環する前に破壊してしまいそうですね。」

『大量生産向きの大型機械は必要ないです。消費に見合った生産ができる機械でいいんです。』

「薪ではなくペレットの魅力はどこにあるんですか?」

『保存性,安定性,連続使用の自動化がしやすいというようなことはあります。』

「化石燃料に頼らなかった時代に戻し,木炭や薪ではない木質ペレットが山だらけの日本を救うという構想ですね。」

『モデル事業になるところはWEB上で1か所見つけました。機械の小型化開発をする会社が後押ししていますが,個人では採算が取れそうにない金額です。それに加えて原材料の調整がネックになりそうです。』

「木や枝を入れたらすぐにできるという訳にいかないですか?」

『無理です。生木や緑の葉は水分量が多すぎます。乾燥させてため込まないと作業できないのです。商業的にやっている事業所は原材料を粉砕して,乾燥させる工程を入れています。燃料を使っての乾燥ですから,環境負荷が気になります。』

「ペレットがストックできれば乾燥や発電に使えませんか?」

『そのためのプラントが高価すぎます。』

「なるほど。最終的には育つ量と使う量のバランスが求められるんですね。」

『経費を低く抑えて,使いすぎないというのが原則になります。』

「風力発電も太陽光発電もコストの問題が大きいですね。」

『環境負荷が小さいからだけでは成り立ちません。』

「地域内の循環を考えた量で十分。人のぶんまで作って稼ぐ必要はないんですね。」

『自家消費の剰余分で稼ぐ方法は太古の時代にやってましたが,争いごとの種になってしまいました。』

「化石燃料も元を正せば植物でしたね。しかも地球という天然プラントで作られた余剰燃料なのに使いすぎているかな。」

『地殻変動は熱と圧力を生み出し,巨大な石炭や石油を製造するプラントだったわけです。』

「まちとむら,どちらがより長く生き残れる可能性があるか。答えは出ていますね。」

『まちが生き残ってむらが消えていくのは歴史の流れからして変です。』