分散型社会

「循環型社会は農業生産などで提唱されてきましたが,工業生産ではコスト高で進んでいませんね。分散型社会の実現も複雑怪奇ですね。」

『高度経済成長の過程で意図的に集中させる方法がとられました。海岸に近いところへコンビナートを作った経緯があります。関連する工業生産を分散させると効率がよくないという考え方です。』

「商業施設も含め,居住地域も似たような動きをしてきましたね。」

『都市に人を集めることで,生産と消費の効率を上げ,消費生活の便利さを追求してきました。大量生産,大量消費が仕組みやすかったわけです。』

「大きな変化として個人商店が消え,大型店が全国展開をしてきましたね。」

『資本を後ろ盾に大量仕入れをしてコストを下げるやり方です。』

「工業生産と居住地域は混在しにくいですから,隣接したところに人が集まる。物流コストを下げるために関連製造業も集まってくる。一極集中の流れに乗ってきたわけですね。」

『ところが,広域災害が起きると都市機能の麻痺だけでなく,製造業の連携がダウンしてしまいました。』

「便利さ,効率追求の裏にはリスクも高くなるという欠点がありますね。」

『都市部にあらゆるものを集中させてきた結果,中心部の居住地域が空洞化し,環状の居住地域に変化したわけです。』

「大規模災害のリスクを回避する流れを作らないと防災体制だけでは追いつかないでしょうね。」

『先例はあったのです。台湾で地震が起きたときコンピュータの部品が供給できなくなりました。コスト競争について行けず,老舗が撤退する中で台湾は一人勝ちしていたのです。メモリーが品薄になり高騰したことはそんな昔のことではありません。』

「分散型の社会を考えるいい機会だったはずなのに,1年もかからずに復活したことで深刻さは遠のいてしまいましたね。」

『極端なことをいうようですが,戦時体制を想定するぐらいの覚悟で,いかに日本が安心できる状態にないかを認識する必要があります。』

「例えば,東京湾に原発を作らないということと,広島と長崎が標的になったという史実は無関係ではないですね。」

『軍需工場を分散させている状況を攻撃側は理解したうえで実行しました。後のことを考えると,集中した中心部を標的にするより影響は大きいという判断です。』

「ところが,国の土台になる土着依存の農業生産や漁業生産は分散型社会をずっと維持してきた。戦時中は疎開先になっていますからね。」

『工業生産は集中型を維持し,分散を促すことを本気で考えてこなかった企業が大半です。』

「といっても原料が土着型になる紙の製造と利用産業は分散ができていますね。」

『木材と水は欠かせませんから,どこでもいいというわけにはいかないです。』

「流通や通信の基盤整備が充実してきた現在,工業生産の分散は不可欠でしょうね。」

『人の流れを変えるにはコストとリスクを設計し直すしかありません。』

「大震災が再構築のきっかけになるといいのですが。」

『分散型社会と過疎の問題は表裏の関係です。』

「企業だけがコストを追求していると,生活コストが圧迫されたままですからね。」

『かつて,松下幸之助は我社の工場は47都道府県全てに展開すると宣言して実現されました。しかし,海外との比較で人件費は見合わないものとなってしまいました。』

「それはともかく,税金の高い都市部,エネルギーコストの高い関東地域を脱出する工場が出てこないと動きは実現しませんね。」

『しがらみの薄い健全な資本が全国展開することを願っています。』