意志決定と専門家

「ずっと気になっていることが一大事になると鮮明になりますね。」

『普段はなあなあですむんです。いざというときに頂上に立つ人間の決断がずばり出てくれば右往左往しなくてすみますよ。』

「ある目的のために人を組織するとき,専門家もしくは有識者という構成が必ずありますね。」

『話をまとめるために都合よく後押しする人選が多いですよ。』

「シナリオがあるからそれで動きますけど,危機管理では無理ですよ。」

『船長と一緒ですね。波風が押し寄せる中で,安全確保をするために情報を集めて決断するのが船長の役目ですね。』

「錯綜する異見が飛び交っても,最善の決断を信じるしかないですね。」

『自分は分からないからといって,専門家に意思決定を委ねるようなことはあってはならないことですよ。』

「真反対の結論が出てきたとしてもどちらかに決められるのが頂上に立つ人ですね。」

『責任を逃れることができない立場という自覚があればいいんですよ。』

「ですね。専門家が止めろと言ったから止めたではいけませんね。」

『自分が分からないとき止めろと言うなら,止めるなと言う考えはないか確認してリスクを秤にかければいいんですよ。』

「民主主義と危機管理をはき違えたらえらいことになりますね。」

『ですから,意思決定の権限を持つものは,あらゆる情報が集中するような指揮命令系統を持つことが必要ですよ。』

「軍隊が一番整っているでしょうね。」

『いやいや,会社組織でも行政組織でも同じこと。できていないから,まずいことになってしまうのが現実だと思いますよ。』

「頂上にいる人間の取り巻きが意思決定をしてしまうと信頼関係は失われますね。」

『取り巻きは進言する立場にいることを自覚していないと組織を壊しますよ。』

「意思決定をするためにはいくつかの条件が見えてきますね。」

『緊急時はどうしても即断即決ですよ。』

「優柔不断は慎重な判断と取れますが,ひっくり返せば判断を先延ばしすることで危険が大きくなることもありますね。」

『根拠のない即断即決は御法度ですよ。判断する以上幅広い知識を持ち,総合的に検討できる力が要求されますよ。』

「明治のころに比べて情報の伝達手段は格段に進歩しましたね。ただし平常時だけで,危機的状況下では明治時代と変わりないかもね。」

『巨大津波が来ると分かっていても周知できない。放射性物質の拡散がシミュレーションされたのに周知できない。電源確保は必須条件なのに多重安全策はとられていない。コンピュータのための無停電装置は何を保証しているか理解していない。電力を融通しあう仕組みが整っていないことは周知されていない。万が一の大停電が起きたときの復旧はどれくらいかかるのか想定されていない。たくさんありますよ。』

「日常的に使っている道具がどのように使えなくなっていくか知らないでしょうね。まさかは考えていないかも。」

『例えば,固定電話は非常時に優れていることは知っている人が少ないですよ。大規模停電が起きても接続を請け負うコンピュータさえ動けば通信可能。電話機の電源はいらないんですよ。』

「IP電話はそうはいかない。発信側も受信側も電源が確保されていないと使えませんね。」

『こうした知識は専門家だけに任せておけばいいことではなく,意思決定をする人間の常識なんですよ。』

「阪神でも今回でもちぐはぐするのは報道機関の情報収集目的がばらばらですね。」

『惨事を取材するために最も機動性の高いヘリを各社競って飛ばすけども,渦中の人のためにどれほど役に立ったのか検証して欲しいところですよ。』

「初動体制の中で情報収集した記録は,災害対策本部に提供され,自社の報道にも使うという公共性が欲しいですね。」

『市町村の行政機能が壊滅したときこそ民間と自衛隊が頼みの綱となりますよ。アメリカの駐留部隊は頼む前から速い動きだったと思いますよ。』

「テレビを見ながら情報収集をするようなことではお粗末なこと限りない。アメリカは軍事衛星を使って情報収集し,動きを即座に決めていると予想できるんですね。」

『公表されなくても分かりそう。ということで,意思決定のためには迅速な情報収集が欠かせないんですよ。』

「日本とアメリカでは情報収集の手段も組織も大きく異なりますね。」

『戦時中の出来事が国家戦略としてのあり方に影響を与えていますが,組織面は弱いですよ。』

「見習う部分と歴史的経緯を踏まえる部分をすりあわせて,闇に包まれた外交をこなしていく上でも情報収集の国家戦略は意思決定の重要な鍵ですね。」

『あらゆる危機管理とほぼ同じ位置にありますよ。専門家を寄せ集めるだけではうまくいかない。膨大なしがらみを切り崩せる情報収集と意思決定が重要だと思いますよ。』