津波
「内陸地に長年住んでいると縁のない災害ですね。」
『ところが海岸沿いに住んでいる人にとっては,高潮とともにこわい存在です。』
「一気に海面が盛り上がり,押し寄せてくる海水の破壊力はすごいですね。」
『防波堤も木造家屋も耐えられません。押し寄せた後は必ず引きますから,河川の水害とは違います。』
「災害さえなければ,港に近いところに住居や施設があれば便利です。滅多に大きな津波はやってこないというだけで無防備ですね。」
『過去の教訓からこれなら安全と判断しても,想定を超えればどうにもならないです。地形も条件となり,一律に予想できないです。』
「復興に先立ち,今回の災害が現場実験のデータになるとはいえ,模型を使っての模擬実験は必要不可欠ですね。」
『津波に持って行かれない建物となれば足下駄を履いたビルしか思いつきません。10mの津波が来れば,4階以上は水に浸からないだろうという予測です。』
「かといって高台に建てれば,地滑りの心配と行き来の不便がつきまといますね。」
『少なくとも元あったところに同じ規模の家を作り直すのはやめたほうがいいです。』
「内陸でも昔から言い伝えられている安全地帯には意味があるんですね。」
『昔から危ないところは避けて家を建ててきました。』
「一見よさそうなところでも,水の通り道だからだめだといわれたり,日当たりはよくても風の通り道だからだめだといわれたりしてきましたね。」
『適地は長年の積み重ねで安定なところを見定めています。それでも絶対はつきません。』
「災害は貴重な実験データと見なければなりませんね。」
『一方で,津波がもっているエネルギーは震度や地震規模だけで決まりません。』
「海底の岩盤がどれくらいの規模でどのように動いたかで大小は決まりますね。」
『GPSのおかげで動きは正確につかめ出しました。しかし観測点は限られていますから,万全ではない。さらに即座に分かるというものでもない。』
「気になるのは東南海沖を重視した施策ですよね。日本全体をつぶさに監視しているわけではないから,まだまだ予想外の出来事には対応できないでしょうね。」
『過去のデータでさえ,施策に生かされるところまで至っていない。忘れたころにやってきたという繰り返しです。』
「もう一つ切り離せないのが,日本は地の利を生かした生活様式が長年根づいていることですね。」
『特に戦後は大きく変わった。定住する人と職に従って移動する人が混在しています。』
「海岸沿いの定住は漁業に,農地のまわりには農業に携わる人々が定住していますね。しかも専業でない場合が結構多い。」
『経験を生かして高潮の被害は頻度が高いから避けて定住するでしょう。被害が出れば防潮堤でしのいできた。しかし,津波は滅多にないだけに,過去にこだわらずに定住してしまう。』
「それでもそこに住み続けたいという人と安全策を考えたいという人と移住するしかないという人に分かれるんですね。」
『まさに他人事ではなく,相手の立場に立って策を練るのが一番です。』
「自然を相手にする以上,絶対大丈夫ということはあり得ないですね。想定外を口にするのは自然現象を舐めているのと同じです。」
『判断基準が人命尊重なのか,責任回避なのか,報道される声を聞いているとたびたび首をかしげてしまいます。』
「住み慣れた土地に安全に住むことが目的なのか,災害を回避することが目的なのか大きな違いになってしまいますね。」
『くらしが成り立つ土地に人が集まり,集落ができる。集落維持のために人と人がつながる。定住をしていない人ほど立場を変えて考えることが肝心です。』
「会社や工場,役所の労働者として生活の糧を得ている人は,会社や工場,役所が移動すればそれに付随した動きをしますから,定住とは言えないですね。」
『農業や漁業は土地があって成り立ちますから,移住という選択肢が元々ないのです。教訓が役立ちますように。』