国の礎
「こういうご時世の時ほど歴史認識が深ければ将来を見誤らないと思うんですが,いかがですか。」
『経済活動や科学技術の飛躍的な変化ばかりが注目されていても,ごくごく一部だという認識がなさすぎますからね。』
「いつの時代も人が生きるためには食べていくことがいの一番ですよ。」
『家庭でも国でも何かに依存して生きる安易さは危険がいっぱいですね。』
「食料生産に自信と誇りが持てなくなったときだからこそ,貧窮していたころを検証して策を練るんですね。国が音頭を取るべきか,個人が認識を新たにするのか。そこで依存関係にならされていると人のせいにしやすいかな。」
『責任転嫁ですね。』
「のんきなこと言って,はぐらかしても解決しませんよ。」
『車やテレビはなくても生きていけますが,米がないと生きていけませんからね。』
「かつては食糧増産のための技術開発が命題になっていたんですよ。増え続ける人口を賄うためには,効率のよくない主食生産は将来的な危機につながっていた。事情は違っても相変わらず同じことですよ。」
『人口増は横ばいでも,農業者の年齢や気候変動はぼちぼちきな臭くなっていますからね。』
「中国やインドの急増人口はそれぞれが礎の産業を見失うと世界中を食いますよ。」
『干魃,冷害,水害になればひとたまりもないですね。おしゃかです。飢餓難民予備軍。』
「日本の豊かな自然と平穏な世間に安心していられるのも,農業が維持されているから成り立ちます。それでも,些細なことをまじめに考えると危ういですね。」
『どういうことですかな。』
「下水と干魃という話が地元で賑わったことがあるんです。」
『下水が何で干魃につながるのか。分からんなぁ。』
「生活排水が川に流れず,下水管を通って下流に運ばれてしまうと川の水が減るという理屈なんですね。」
『都市部なら話が違うでしょうけど,里山では川が上下水であり,用水であり循環していたわけだ。』
「目の前の川が機能を失って,地中のパイプを別の川が流れるようになったんですね。」
『生き物を支えている水は,炭素の循環を支えている。途切れたら砂漠化だ。』
「農業を礎として重視するなら,水も維持できるはずですね。」
『鉱工業は循環していないということになりそうだ。』
「現実の生活を支えているというものの,やはり依存していますね。」
『経済活動を炭素循環,つまり農業重視にシフトしバランスを取らないとまずい。』
「労働力を効率のよくない産業に移さないと将来的な危機は乗り越えられないでしょうね。」
『世界中を相手にして食糧確保をするのは愚かなことになると言いたいわけだ。』
「そうなれば温暖化にブレーキをかけることができるメリットがありますね。」
『炭酸同化作用を人工的に化学的にできないかと考えている学者もいるようだけど?』
「そうなるまで待ちますか?」
『あてがないな。』
「となれば,消費のみに依存している世の中を依存に対する恩返しができる世の中に変えていくしかないと思うんですがね。」
『日本の農業は諸外国と比べて規模が小さすぎるとか,割に合わないとか,見当違いの意見だけが突出してますよ。』
「江戸時代に近いようなしばりが災いしていますね。」
『というと?』
「職業の自由は保障されていても,新規営農就労は困難を極めますね。」
『保護政策が災いして,世襲を後押ししているというわけだ。』
「崩してはいけない考え方が国の礎にならないとめいめい勝手に動いてしまうでしょうね。」
『二酸化炭素を出したら同じだけ吸収することが自然に逆らわないことになる。』
「近世以降逆らっていますからね。」
『人口の半分も自力で賄えていない現実は,いつ落ちるか分からない橋を渡っているようなもんです。』
「数字に惑わされず,生産しているものの価値を国の礎にしなければ国の力は比べられないと思うんですけどね。」
『専門家が幅広い見識を持たないと進むべき道を間違えそう。やっぱり歴史が大事だ。』