鳥獣知恵比べ
「美味しいものを作っていると一番美味しい時を狙われますね。」
『作る楽しみも相手にとっては生きるための手段ですからな。』
「長年横取りされたのがブルーベリーの実。熟れるのを待ちかねてやってきます。」
『ヒヨドリの面々ですな。』
「網をくぐったり,ホバリングしたりしてついばむのが得意ですね。」
『細いテグス糸の網なら絡むので効果がありそうですよ。』
「そうなんですが,枝や葉に絡む厄介さとともに鳥が捕獲されるともうむちゃくちゃですね。」
『手抜きをしたら効果なし。囲ってしまうのが一番ですな。』
「上からかぶせているだけだとやってくれますね。下の隙間から入り込んで食べまくるんですね。」
『やっぱり。』
「これにはおまけがついて,食べるのに夢中になっていると家の周りを往来しているネコがヒヨドリを捕まえたことがあるんですね。」
『弱肉強食そのものですな。』
「次なるちん入者はタヌキとアナグマの面々。食べごろに色づくと網をくぐったり,食い破ったりして侵入。網は効果なしですね。」
『上があいていると鳥も来るでしょうな。』
「そうなんです。アナグマは10cmのマス目のメッシュだってくぐり抜けるんですね。小さな隙間大好きなやつです。」
『地面以外はすべて囲い込むのが一番ですな。』
「といっても下手なことしていると穴を掘って侵入を試みますからね。なかなか手強いです。」
『そこまで厳重にすると収穫のために自分が入るのも難儀でしょうな。』
「そういうことになりますね。」
『珍事はなかったですか?』
「ありますね。網の隙間を狙ってタヌキが入り,平らげたあと出口が見つからない。小一時間ほどつがいのタヌキはギャーギャーわめいていました。」
『となると捕獲ですかな。』
「レーザー光を照射して追いまくりましたが,結局出口の隙間に偶然行き当たり,2匹とも遁走しましたね。」
『そうですか。もう対策は万全ですな。』
「いやいや。4年続きで奪われていますので,知恵比べ中ですね。確実な囲いにするほどコストが高くなるんですよ。」
『そりゃ大変だ。買って食べた方が安くつくでしょうな。』
「多分。それでも自作に意気込んでますよ。」
『大物はいかがですか?』
「3年ほど知恵比べしているのがシカですね。ジャンプ力にあきれてしまいますね。半端じゃないですよ。」
『人間よりすごいですか?』
「もちろん。2mぐらいの斜面や網は楽勝です。そのうえ,プラスチック製の網は噛み切りますからね。」
『何を食われているんですか?』
「冬場はタマネギの葉。夏場は豆類。今年は親子連れで枝豆時期のまめをおおかた平らげてしまいましたからね。」
『食止められなかったわけだ。』
「毎回侵入場所を確かめて,金網や鉄条網を設置するんですが,してやられました。」
『お手上げですか?』
「結局,畑の周り3方向を網と鉄条網で囲ってやっと食止めていますね。」
『やっぱり囲いこまないといけないんですな。』
「以前は人里に近寄らなかった鳥獣も餌を確保するためには避けられんのでしょう。」
『今年の天候では実がついていない木が多いですからな。』
「さらに狩猟の数も減って,頭数が増えていることも原因でしょうね。」
『イノシシはけっこう捕獲されて食べているはずでは?』
「イノシシはねずみ算式に増えますから追いつかないでしょうね。経験豊かな親のイノシシはワナを避け,禁猟区を察知し,なかなかの知恵がありますよ。」
『シカの入る畑にイノシシは来ないですか?』
「以前は来ていたそうで,前の所有者がトタンで囲っていますから大丈夫みたいですね。」
『いやはや動物との知恵比べは手強いということがよく分かりました。』
「嫌がる対策が一番ですね。嫌がる作物でも意外な被害を聞きますからね。」
『といいますと?』
「同じ地区内の奥まったところでは収穫前のタマネギをぬいてかじりまくったという事件がありますね。」
『まさかシカが?』
「サルですよ。」
『涙を流したんでしょうな?』
「同席してなかったので何とも言えません。」
『田舎でのんびり自給自足なんて甘くないですな。』
「農薬を使わない以上に大変なことがいっぱいです。」
『かわいい顔していても敵にしか見えないでしょうな。』
「都合よくいかないのは世の常ですね。」
『そして,そこに住んでみないと大変さは分からないということですな。』