課題発見の道「車椅子体験」
 発問は、実践している先生が授業を通して一つひとつ検証しながら磨いていくものですから、あまり深入りしないことにします。同じ文言でも、ていねいに言葉の持つ厳密な力を育ててきた学級と曖昧に感覚的な言葉で盛り上げてきた学級とでは、子どもたちの受け止め方が違ってきます。法則化でいう発問の定石も学級経営の基盤づくりと先生が育てようとしている言語能力が明らかになっている前提がつきまといます。教育哲学のない法則化はうまくいかないマニュアルみたいなものでしょう。
 これまで、大きなテーマから糸口になる小さな点を投げかけていく発問を提供しました。次なる構想は、子どもたちが様々な問題を自分のものにしていく過程を探っていきます。アトランダムに素材を選んで、シリーズでお届けしたいと思います。

 車椅子に乗るだけでは、問題が見つかりません。いきなり、体験をしても課題には結びつきません。学校の中に、あるいは、学区の中に車椅子利用者がいるとか、学校に車椅子利用者がいるとか、特別養護老人ホームと継続的に交流しているとかの動機となるものは必要です。
 「車椅子に乗って、町に出かける、学校の中を巡る、電車やバスに乗る、・・・とどんな問題点が見つかりますか?」
 段差に困ってしまった。坂道はこわかった。階段しかないところは、どうにもならなかった。トイレに入れなかった。手が洗えなかった。スイッチに手が届かなかった。窓口のカウンターが高すぎた。歩道の自転車や車が通せんぼした。バスには乗れなかった。切符の自動販売機に届かなかった。一人では上れないスロープがあった。ホームから電車には一人で乗れなかった。歩道のないところはこわかった。地面に落とし物をしたら、一人で拾えなかった。介助の声をかけるのに勇気がいった。じろじろ見られたのがいやだった。店に入ろうと思ったら、ドアが開けられなかった。・・・などの発見はまだ問題点のままです。
 もちろん段差が工夫してあるところ、高さを工夫しているところ、親切な人にであったこと、自動ドアやエレベータが役に立ったこと、なども同時に見つけていますから、問題解決の答えも得ています。では、いったい何が子どもたちの課題になっていくのでしょうか。
 ・学校の中の障害を取り除くにはどんなことができるのか。
 ・バリアフリーをめざした建物や道具を調べて、どんな工夫が自分でできるか。
 ・車椅子を使っている人と話をして、願いを多くの人に知らせることができるか。
 ・車椅子で行けるところ、行けないところを探検して、車椅子利用者に知らせることができるか。
 ・車椅子に限らず、障害者を支えるボランティアとしてどんなことができるか。
 ・目に見えない障害を持っている人と交流して、願いを多くの人に知らせることができるか。
 ・どんな人にも優しい町づくりをするにはどうしたらよいか。
 ・自分たちで解決できない問題はどこのだれに伝えればよいか。
 一人でどこにでも行けないのは、仕方のないことではなく、おかしいことなんだという考えが根底にあります。障害を克服しなければならないのは、多数者としての障害を感じていない人たちです。障害を克服する学びと活動を通して子どもたちは課題を見つけることができると思います。