学習素材「衣」
 日本の現状からして、着るものについて不自由を感じることはまずないでしょう。それだけに衣について探っておくと生活の中で衣が果たしてきた役割を学ぶことができます。ファッションの前に機能を重視し、気候風土に適した衣が形作られてきたこともつかむことができます。
 子どもたちにとって、衣は作るものではなく店で買ってくるものという感覚になっています。かつて繊維産業が盛んだった50年前と比べると時代の変化は大きいでしょう。繕って使い続けたり、作り直したりすることが普通のころは、衣は貴重品だったわけです。機能性とファッション性が融合していくなか、身にまとう衣は特別のものではなく、日常化したものになっています。
 衣は糸を作るところから進化してきました。編み物にしても織物にしても、原材料の繊維によりをかけて糸にすることから始まっています。撚糸という工程です。糸になる原材料は天然のものに限られていました。その後、化学繊維が発明されたことによって、技術は飛躍的に進歩し、低コストで大量生産を可能にした歴史を持っています。純粋に化学的に合成された繊維は、近年、天然繊維と混じることによって、より機能的なよさを追求してきたのです。
 綿の種子の周りについている繊維から木綿糸が作られます。蛾の幼虫の繭から絹糸が作られます。麻の樹皮や葉、茎から麻糸は作られます。羊の毛から作られるのが毛糸です。糸ができると、織るか編むか、どちらかの方法で衣に仕上げられます。さらに部品を縫い合わせることにより、体型に応じた服として完成します。特別な例は、アジア各地で生まれたフェルトです。糸ではなく、原材料の動物繊維を絡ませて作っています。

 衣を学習素材として投げかけるとしたら、自ら身につけている服が織って作られているのか、編んで作られているのかを謎解きする流れが考えられます。どちらか一方に偏っていることはあるかもしれませんが、学級全体としては必ず両方出てくるはずです。次の段階として、くらしの中の衣に目を向けて種類分けや繊維の歴史をたどることで広がりを見いだすことができます。教科との関連は家庭科や社会科に見いだすことができます。家庭科では、衣服に縫いつけられた品質表示の布きれが学びのきっかけとして教科書に示されています。
 再現する体験としては、天然繊維を身近に求め、平織りに挑戦するのが簡単でしょう。素材として綿や繭より麻の仲間に注目する方が興味深いです。イラクサ科苧麻(チョマ、カラムシ)は東北地方を中心に継承されています。西日本でよく見られるコアカソも使えそうです。一時話題になったケナフも近縁の仲間です。紙になるか布になるかは、繊維の強度、肌触りで決まってきます。繊維の長さやからみ加減でも用途が変わり、試行錯誤の中で適性が絞り込まれたと考えられます。
 余談になりますが、かけつぎという伝統的な布の修復技術は織物を理解していくうえで注目に値します。看板を掲げて営業する方が減っているだけに、子どもたちが出会うのはまれになります。学区の中にかけつぎを営んでいる方がいれば、衣に関連する素材になるでしょう。