学ぶとは〜円をかく
 コンパスを使って円をかく学習は3年生でします。コンパスで円をかくだけならば,5分もかからずに教えてしまうでしょう。針を置くところが中心,中心から円周までの長さが半径,中心を通る直線の円周から円周までが直径,直径は半径の2倍になっていることを伝えれば,円がかけるかどうかに行き着いてしまいます。実際は,かき方と用語を覚えさせる以上にかくことに四苦八苦していることと思います。
 授業の中で学ぶことを仕組まないと図形の概念は曖昧なままで終わってしまいます。教科書では,多くの場合コンパス以外の道具で円をかくように興味づけをしています。短冊や糸と針です。これは定義づけを一般化していく学びを想定しています。子どもたちに,一点から等間隔にある軌跡が円であることを学び取らせるものです。目に見える円周を示して,円を理解することは図形の概念から飛躍した説明になります。
 円の学習で印象に残っている授業があります。教室の床に中心となる一点を決め,そこから同じ長さの位置に子どもが立つという活動です。同じ長さは,一つの方法に限定しません。巻き尺,ひも,支柱など何でもいいのです。学級に20人も子どもがいれば,見事に円周上に子どもたちが並びます。最初に決めた一点を中心といいます。みんなが立っているところが円周です。同じ長さにしたところを半径といいます。二つの半径を一直線にしたら直径といいます。直径は半径の何倍になっていますか?・・・という説明と発問でまとめをすることができます。この実践の優れたところは,客観的に円をとらえることができ,次の段階で紙の上に円をかく意味がイメージとして形作られることにあります。活動を通して円というのはどんなものか実感できるのですから,言葉だけで教えるのとは大きな違いがあります。
 この学習をした後にコンパスを使えば,手先が器用でない子どもたちもどんなことに目をつければよいかが分かってくると思います。中心や鉛筆の芯の位置を変えてはいけないことや円周が最終的に閉じられていることを判断材料にすることができます。図形の概念が未分化の状態では,直線や曲線が閉じていること,頂点が明確であることが曖昧になります。それだけに説明や注意だけで意識させることには限界があり,活動の場を仕組まないと学ぶ機会はないでしょう。コンパスの頭を親指と人差し指で時計方向にひねるこつや円周をかく方向にコンパスを少し倒すとかきやすいというこつは,円の意味が分かっているときに生かされます。
 知識や技能を伝達して,知っているか否か,できるか否かだけを問うのであれば,算数科が求めているねらいとはかけ離れていきます。そのうえ,学ぶことから遠のいていきます。総合的な学習においても豊富な知識を獲得していくことで,生きるための考えを身に付けられます。知識と考えをつなげていくのが,学びです。教科を問わず,考える場面こそ子どもの学びが広がるところだと私はとらえています。