学ぶとは〜数〜
 数について学ぶ1年生の算数は、一見簡単なことのようで実は高度の考え方を使います。数の概念そのものは、概念ができている人にとっては簡単なことです。しかし、具体的な個数から抽象数を理解するまでには、操作を繰り返したり、数を一般化したりする過程が必要です。一を1と書くだけで終わらないのです。
 リンゴが一つ、飴が一つ、箸が一本、犬が一匹、車が一台などなど、一という数に付随する情報を捨てていくと一だけが数として残り、その概念を1という数字で書き表す学習です。1の書き方は教えることができますが、概念は子どもが自ら学び取って自分で理解するしかありません。前述のような理屈を1年生の子どもに話したとしても意味が通じないことは先生ならばよくご存じのことと思います。
 一から九までの数字を書かせることは短時間で終わりますが、数の関係を理解していくことはたやすいことではありません。九は六と三に分けられる、五と四をいっしょにすると九になる、九を三つずつに分けると三つの固まりができるなどなど、いわゆる数の合成と分解という学習で概念を拡張することを学びます。これらの組み合わせをもれなく教えたとしても、使いこなせるように身につけるのは子ども自身です。記憶するのではなく、概念が拡張されたときには記憶もすんでいます。ですから、機械的に記憶だけした子どもは、次の段階で計算をするときに使うことができません。学ぶという営みを理解している先生は、すべての組み合わせを教えることはしないでしょう。法則性や加減の計算力も抱き合わせながら、類推して自力で合成分解できる子どもには学びを促すことになります。
 しかし、生活経験の少ない子どもにとっては難関ですから、繰り返し操作を通して習熟を図るはずです。概念は教えて理解するよりも、繰り返し操作をし、身をもって形成するしか手がありません。従って、教えることは少なく、習熟のための支援をするのが先生の役目となります。飽きないように、ねばり強く達成しないといけないからです。
 算数や数学の世界は抽象的、合理的、論理的に物事を抽象化していく考え方を身につける学習です。教えるだけでは、達成できない教科です。いいかえれば知識を伝える部分より考え方を子どもが学んでいく教科です。きちんと指導していない先生は、算数を教えることは見やすいと安易に受け止めている傾向があります。もし、そうであるならば、学ぶということを念頭に教材研究をやりなおしていただきたいところです。
 算数は総合的な学習とはあまりつながらないとお考えの先生がいるとしたら,それは大きな間違いだと申し上げます。算数は算術だと勘違いしていると無縁のものに見えてきます。算数は数学の入り口です。多くの学習内容は,戸口ではなく,家の内側に当てはまります。