学習素材「打ち水」
 打ち水は、水が蒸発するときに熱を消費することを利用した、涼しくすごすための伝統的な方法です。あわせて、土ぼこりが立つのを防ぐ役割もあります。コンクリート、アスファルトがなかった時代から行われていた生活習慣ですが、全国どこでもという習慣ではなさそうです。
 都市部では、ヒートアイランド現象の対策、地球温暖化対策につながるとして打ち水キャンペーンを展開しています。愛地球博ではドライミストの設備が登場し、圧力をかけたノズルから水を霧状にして出すことによって、濡れることなく気化熱を利用して涼を呼び込み、注目を集めました。
 我が家も冷房機がなかったころには、夏の炎天下、かど先や屋根に井戸水をまいていました。気温が最高になる2時ごろよりも夕方のほうがひんやりする効果はありました。昔ながらの井戸にポンプを据え付けて、植木や鉢物の水やりに使ったり、洗車に使ったりしていました。ポンプの電気代だけですむため、流しっぱなしでも水道代を気にすることはありませんでした。とりわけ、水温の変動が少ない井戸水は、スイカを冷やすのに今でも重宝しています。
 打ち水大作戦のキャンペーンで紹介されているように、まく水は限定しないと本末転倒になってしまいます。生活雑排水の有効利用とともに、先人の知恵も生かしていきたいところです。上水道がなかった時代、防火用水は雨水をため込んでいました。ひねると飲み水が出る日本では、水のありがたさが深刻になりにくい傾向はあります。給水制限が出るような地域では、雨水の有効利用を考えたいところです。水の確保に苦労している島では、雨水をため込むことは当たり前のことですが、水道のある地域では意外と気にされていません。雨水の有効利用は、打ち水だけでなく、生活用水全般で考えていけることです。自然と向き合う大切さを学ぶことができます。
 さて、打ち水の効果を調べることは、理科学習の延長線にあります。日向と日陰の温度を測る中で、打ち水は日向と日陰のどちらにするほうが効果があるのか、時間帯はいつするのが効果があるのか、比較することになります。さらには、コンクリート、アスファルト、地面で違いは出るのかという条件も絡んできます。周囲の様子、天候、風の強さなど多くの条件が絡んできますから、違いの原因を確定する難しさはつきまといます。まく前とまいた後の違いを調べるために場所を固定し、天候や風が極端に変わらなければ、比較のための条件はそろえやすいと思います。
 冷房機のなかった時代に涼を求めて、環境負荷の少ない方法を試していくことは、単にエネルギー消費量を減らすよさだけでなく、先人の知恵を伝承することにもつながります。捨てがたいよさを見いだせると期待できます。うちわ、せんす、ゆかた、夕涼み、よしずなどは、電気も化石燃料も使いません。しかし、日常的に利用されることはまれになっているものばかりです。打ち水をきっかけに素材を広げていきやすい展開になるでしょう。また、打ち水は単独で行うより、近隣がこぞって参加することで、効果は大きくなる特徴があります。仲間を誘うという人との関わりも要求できるでしょう。
 はじめのほうに紹介したドライミストの装置も、運転には電気を使わざるを得ません。水を高圧に圧縮してノズルから噴霧させる装置です。炎天下に使うことを想定すれば,太陽電池パネルとセットで稼働するほうが環境負荷は押さえられます。曇れば止まってしまいますが、暑さをしのぐにはこと足りる方法ではないかと思います。