学習素材「アブラナ」
 食用油の変遷をたどってみると日本の場合はなかなか複雑なようです。その昔、エゴマから油を絞っていたというのが出発点ということです。エゴマはゴマと名前につきますが、ゴマの仲間ではなくシソの仲間です。エゴマを食べると十年長生きできるという話はウェブ上のあちこちで見かけると思います。朝鮮半島では今なお主流の食用油のようです。アブラナは中世以降に持ち込まれ、くせのない油として受け入れられたため、日本ではエゴマ油が衰退していったということです。
 アブラナは別名ナタネとも呼ばれていますが、仲間同士で交雑しやすい特徴を持っています。有用性のある在来品種を栽培するうえで、交雑しないように種を取ることが要求されます。つまり学校で栽培しても、種から種へと受け継ぐには、周辺にアブラナ科の花が咲いていないようにしないといけません。花壇周りにハナナと呼ばれる花を見るための園芸種があれば交雑します。ハクサイやダイコン、ミズナ、カブ、チンゲンサイなどの冬野菜は、すべてアブラナ科ですが、花が咲くまで放置しないでしょうから、野菜類は心配が少ないでしょう。最もやっかいなのは、雑草化した西洋カラシナのほうが影響は大きくなります。ということで、栽培にあたっては、毎年種を購入するのが一番無難です。
 菜種油は店頭の主役になっています。体にとってよくない成分が見つかった経緯があり、品種改良を重ねて現在に至っています。通常アブラナは秋植えして、初夏に収穫となります。麦と同様、学校の年度サイクルには合いにくい作物です。
 しかし、食用油の原料としてあるだけでなく、絞りかすは油かすとして肥料となります。捨てるところが大変少なく、最後まで利用できるよさがあります。小さな規模で油を絞る作業は戦後しばらくの間、各地で普通に行われていました。しかし,麦と同じ運命をたどり、海外の低価格原料をもとに大量生産され、衰退したわけです。道具立ては複雑ではなく、圧搾の機械と焙煎や精製するための鍋、釜があればできます。
 最近では、バイオ燃料として廃油を再利用するために小さなプラントが稼働しています。需要と供給の問題を解決すれば、継続的な代替燃料となります。いかに廃油を低コストで収集できるか、ネットワークができた地域は順調に続けています。
 かつて主流だったエゴマは、健康志向の面で再び注目されるようになり、個人的に取り組んでいる方が増えています。エゴマは、春植えで、秋収穫となります。草丈は1mぐらいになり、栽培は容易です。エゴマ油と菜種油と比較することで、食を考えていくすぐれた学習素材になると考えられます。
 油を絞ることを主たる学びにする外に、循環型農業のモデルになっている事例から学ぶことも可能です。水田の裏作としてアブラナを栽培し、食用油と油かすを生産します。食用油は使用後回収し、小型プラントでバイオディーゼルの燃料として農業機械を動かすことができます。油かすは水田の肥料に使えます。
 一方、種子の採取を目的とせず、有機無農薬の手段として耕耘時に鋤き込む方法を実践している方もいます。昔からある方法は、水田の裏作にレンゲを育て、窒素肥料に転換するために鋤き込みます。このレンゲの代わりにアブラナを鋤き込むことによって、除草の手間が軽減できるという取り組みです。
 米とアブラナを使った循環型農業は、需要と供給のバランスを図った経営規模が一番の課題になります。大きすぎても、小さすぎてもうまくいきません。現在、実践されている地域では、最低量確保のために賛同者を増やしているようです。