総合では観察力
 かつては低学年理科・社会科で培われてきた力ですが、生活科に置き換わっておよそ20年たち、観察力は相変わらず鍛えられているでしょうか?残念ながら、観察力が生活科の中で引き継がれているかどうかは、検証するすべが今のところありません。しかし、自然現象や社会事象に対する観察力は、低学年理科・社会科の消滅とともに低下しているという危惧は確実にあります。理由は簡単です。生活科において学びを求めることより、活動に重きを置いているからです。
 実物であれ、映像であれ、目の前にあるものを観察する力は、茫然と眺めていたのでは何も見つかりません。いくつかある観察の方法を学習していくことで、現象や事象に応じた観察ができます。

 違いを観察する方法です。クイズの世界でよく使われるのが間違い探しです。2枚の絵を見比べて、異なるところを探すお馴染みのクイズです。同じもののどこが違うかを見つけ出す観察力です。例えばアサガオの観察で他の植物の生長と比較して同じところ、違うところを探し出す学習は、共通部分をとらえて種類分けがされていることを見いだしていく元になります。双葉が出てから本葉が出る植物は双子葉類にくくられていることをやがて知識として獲得していきます。

 変化を観察する方法です。時間の流れとともに変化していくことを観察する理科教材はかなりあります。時間の変化にともなって何が変わったかを見いだす方法です。動画のクイズでも使われる手法です。最初の画面と変化後の画面を見比べて、変わったところを見つけるものです。

 特徴を観察する方法です。最も難しいのが、知識を総動員して事象の中から特徴的な事柄を見いだす方法です。低学年社会科の実践で話題にされた「バスの運転手さんの仕事」は典型的な例です。社会見学ではよく使う方法で、一般的な事象と比較して見学対象の特徴を見つけるような場合です。絵をかく場合もこの方法は使われています。写生は対象の特徴をつかんで紙面に色と形を使って再現しているわけです。

 ここ数年、野山の植物を調べていますが、初めのころは、図鑑を1ページずつめくりながら、漫然と同じものはないだろうかと探していました。繰り返しめくっているうちに、植物分類の特徴に気づいてきたのです。属名や科名が同じであれば、葉や花の作りに共通点があることが分かりました。しかも、必ずその特徴をみな備えているかというと、中には変わりものもあるのです。根拠となるものを観察によって見いだすことができると同定という作業は進みます。何千枚とある事典の写真や挿絵を眺めながら、運よく探している植物と同じものに出くわすとうれしくなります。そこにいたるまでの時間はけっこう長いのです。
 ところが、科名と特徴が知識として蓄積されていくと、何を観察して照合すればよいか、推定できることが多くなります。あらゆる植物をもれなく網羅した図鑑や事典があれば、調べたい植物を同定できるということにはなりません。調べる人に観察力とあわせて、体系的な知識が備わっていかないとできません。図鑑や事典を1ページずつめくるという経験は、観察力を磨くことができると実感しています。世の中には、花を簡単に調べられる図鑑や事典は存在しません。WEB上のデータを念入りに調べても根拠を示すことができる観察眼と体系的な知識が要求されます。
 花に詳しい人、鳥に詳しい人、魚に詳しい人、それぞれがしてきたことは、数多くの実物と写真と図版を観察することで、図鑑や事典の概要を蓄積しています。眺める、見るから観察に変わっていくきっかけは、目的や興味があるかどうかで決まります。鑑定という仕事も類似点が多いでしょう。