学習素材「有機・無農薬」
 無農薬といえば農薬を使っていないと理解している人が多いのではないかと察しますが、いかがでしょう。さらに、有機・無農薬となると有機肥料だけを使って育てた農産物だと単純に思いこんでいる心配もあります。
 まず、過去に農薬を使ったことのある田んぼでは3年間経過しないと生産したものに無農薬と表示してはいけせんというきまりがあります。3年たてば過去の農薬の影響を受けないという保障ではなく、単なる目安にしただけです。使われた農薬は、土に残ったり、雨水に混じって流れていったりします。時間がたつにつれて土に残っている農薬は分解され、農薬としての役割は果たさなくなります。種類や量によって分解される速さは違いますから、一概に3年で大丈夫というきまりはとてもおおざっぱなものです。農薬が分解した後に無害となりますという説明はありません。
 次に、周囲の田んぼで農薬を使用していないというきまりがあります。自分が使わなかったから、無農薬とは認められません。水に溶けたものは、下流域の田んぼに入り込みますし、散布したり、噴霧したりしたものは周囲に飛散しますから、他人が使用した農薬の影響を受けてしまいます。農薬の影響を受けない田んぼで栽培することは、水源が隔絶され、周辺地域の農薬が飛散しない場所に限られてしまいます。現実には、離れていれば大丈夫だろうという程度の目安です。
 示されているきまりはまだあります。生育期間中に農薬を使わなければ、無農薬といってもよいという話にすり替えられていることもあります。種の段階で、種々の農薬を使うことを問題にしない九てもいいという考え方です。現に、種籾は、苗の立ち枯れ病やいもち病にならないように消毒殺菌剤を使ったり、田植え後の害虫がいやがる薬剤を使ったりしている場合が多くあります。以前ならば、害虫に襲われだしてから殺虫剤を使用していました。それよりも発芽前に薬
漬けにして襲われないようにしているわけです。無農薬という以上、一切使わないことを条件に実践している農家は、籾種の消毒に温水を使って工夫している例もあります。
 余談ですが、輸入される食料にはご存じのように収穫後に、害虫や病気の侵入を防ぐことを理由に殺虫剤や殺菌剤が散布されるものもあります。農薬を使わずに栽培しても、輸入段階で薬漬けになる問題は、防疫上避けられないところです。解決策としては、食糧を自給する方法しか見あたりません。
 もう一つやっかいなのは、有機肥料に使われる原料に農薬が残留しているかもしれないという問題です。堆肥、骨粉、魚介粉、牛糞、鶏糞など有機素材であることには間違いないのですが、農薬に汚染された経緯がないという証しが必要になります。農薬以外の化学薬品として家畜の配合飼料には様々な薬品が配合されていますし、病気予防のための抗生物質も配合されます。そうした影響を受けない飼料を選んでいないと、なにが混入しているかは見た目では分かりません。有機無農薬で栽培された稲わらと農薬や化学肥料の影響を受けていない牧草を食べた牛から出てくる牛糞を稲作の肥料として使う循環を維持しないと本当の意味での有機・無農薬は表示できないでしょう。
 農薬を使わないように害虫の天敵を使う農法もあちこちで取り組まれています。しかし、自然界の力関係は一筋縄に行かないのが現状のようです。農業生産は人為的な営みですから、国が決めた基準を満たせば表示できるとはいえ、循環のしくみを理解した生産者が良心的に行うことで本当の有機・無農薬が達成されます。消費者もそのことを知ったうえで、相応の安心料を負担することになります。
 付け足しておきますが、遺伝子組み換え作物は、病害虫に強い作物を作ることが目的であって、安全な作物を提供することは保障していません。循環する中でどのような影響を人体や自然界に与えるかは食する人によって人体実験同様のことが行われていると私は考えています。まさに食べられるものと食べられないものを一つずつ試した祖先の生き様と同じです。