学習素材「プルタブ」
 いまだにこういう呼びかけが生きているのかという話です。プルタブを集めて車椅子を送ろうという運動がひそかに続いています。しかし、環境保護や資源回収の学びを進めてきた方なら、たやすく無駄な方法だと気づくのではないかと思うのです。製缶業界の努力が報われない、時代遅れの呼びかけになっているのです。
 このことは、私が初めて指摘する内容ではないことをお断りしておきます。WEB上でもおかしいという記述や開缶の仕組みが変わっているのになぜ続くのかという記述はすでにあります。
 取っ手を引っ張って開ける飲料用の缶は、鉄でできたコップ状の容器にアルミの上蓋を取り付けていました。飲むときに取る部分がプルタブです。これは、開缶すると容器から離れてしまい、このゴミが散乱するという事態を招きました。容器全体がアルミの缶も炭酸ガスを入れた飲料にはたくさん使われ、プルタブのゴミはあちこちに捨てられたのです。
 そこで登場したのが「プルタブを集めて車椅子を贈ろう」という善意の取り組みとゴミ解消の一石二鳥をめざした呼びかけが展開するようになりました。製缶業界はこの善意に甘えることなく、問題解決を進展させました
。海外で先に取り組まれていたプルタブが容器に残る方式を取り入れようとしました。しかし、簡単に踏み切れない問題があったのです。外部に触れている部分が容器の中に折れ曲がることは不衛生だという受け止めです。さらに立てた部品が飲むときに邪魔になって、折り取られてしまうのではないかという不安もありました。いずれの問題も今となっては問題にならなくなっています。見事にプルタブの散乱を食い止めることができたわけです。
 つまり、「プルタブを集めて車椅子を贈ろう」という呼びかけは、所期の目的が失われて、単に無駄の多い資源回収の呼びかけになってしまいました。こういう取り組みは、速やかに淘汰されなくてはならないのに生き残ること自体が不勉強を物語っていると思います。
 収益性を考えるならば、アルミ缶を集めていけばよいことです。1kgあたり40〜50円の引き取り値ですから、1tもあれば車椅子1台が十分に買えます。およそ5万個の空き缶に相当します。プルタブだけならば数百倍の量を必要とします。
 こうした業界の変化に対応しない呼びかけに固執するよりは、最も優れた容器は何かを追究する方が学びを深めることができます。販売容器について、私は再使用されるビンが常々気になっています。一升ビン、ビールビン、牛乳ビンなど長年再使用されてきましたが、今となっては少数派になりました。一升ビンは汎用性があり、酒、醤油、酢、油、ジュースなど広範囲に使われました。ビールや牛乳のように専用ビンは一時拡大し、清涼飲料にもかなり出回っていました。コーラもビン入りだったというのはずいぶん昔の話になり、知らない方も多くなりました。
 もう一つ気になる取り組みは、ドイツのある大学ではマイカップしか受け付けない飲み物の自動販売機があることです。入れ物を用意して中身だけ買うことは60年前は普通の考え方です。消費者の発想ではなく、生産者の要求だったのです。もともと、豆腐屋さんは豆腐だけ売っていました。優れた方法を捨ててきた時代の流れをたどることで学び取ることはあります。たかがプルタブですが、学びの素材となります。