学習素材「循環型社会と燃料」
 石油や石炭が登場する以前、燃料は循環型社会をつくっていました。薪と木炭、動植物の油だけですから、木を切り出しても数十年後には再び切り出すことができるようになっていました。木を切る量と育つ年数の釣り合いをとりながら営まれていましたから、切り尽くすことなく、循環したのです。燃やすことでできる灰は肥料になったり、灰汁になったりして次の生産物に使っていました。無用の埋め立てゴミではなく、有効に土に戻す流れがつくられていました。
 産業革命以降の生産と消費は、燃料の分野でも循環型社会をくずしてしまいました。薪の変わりに石炭、石油、ガスが使われ、これまでになかった電気が登場することで後戻りはできなくなりました。燃料の範囲が広がり、ものをつくるための原料にもなってしまいました。
 70年ほど前のくらしを体験している人は、30年後には皆無となります。調理をするには薪や木炭を使い、風呂を沸かすのも薪、冷房はなく、暖房は木炭。電気は明かりが主で、情報は新聞とラジオ。移動手段は自転車か公共交通機関だけでした。これでも豊かなくらしにはなります。現在のようなくらしの形であれ、70年前のくらしの形であれ、くらし向きが続くことで豊かさは実感できるものとなります。
 大きく異なる大切なことは、便利になったではなく、限りがあるかないかという点です。化石燃料は限りがあります。しかし、木の燃料は、環境を維持すれば無限に続きます。そこで、危機的な状況になる前に考えられていることが3つあります。
 まず、石油製品のゴミを回収して、再び石油原料に戻す仕組みです。廃プラスチックを集めて、軽油をつくったり、加工用の原料をつくっていることはご存じだと思います。回収率は高くありません。集めた廃プラスチックが混在しすぎていると再生プラントではなく、発電用燃料になっている場合もあります。一見循環しているように見えますが、再生燃料は使うとおしまいになります。つまり、一時的に節約しているのと同じです。
 もう1つの試みは、植物から液体、気体の燃料をつくることです。話題になっているバイオエタノールはこれに当てはまります。化石燃料のガソリンに混ぜ、増量剤として使われています。原油の消費を減速させると同時に、食料としての穀物が不足したり、値段が上がったりする問題が起きていますから、手放しで喜べる解決策にはなっていません。日本では、食料や穀物市場に影響を与えないよう、原料を選んでいます。これらの取り組みも結果的には節約しているのと同じです。
 化石燃料の枯渇問題は、二酸化炭素排出の問題と連動しています。炭素と水素と酸素で組み立てられた燃料を使う限り、地球温暖化を避けることはできないのです。排出と分解の釣り合いがとれていたときと、燃料に関して循環型社会であったときは重なっています。従って、およそ50年の間につくられた化石燃料依存症を社会全体で治すことが求められています。

 子どもたちにとってひねれば使える燃料の将来的な問題点を意識させるためには、複合した問題点をいかにつかみ取ることができるかにかかっています。環境と資源エネルギーに集約された言葉の中身を追求することで、生活実感と結びついた解決策が考えられると思います。もちろん、先生自身にも幅広い見識が求められます。

・なくなる前に植物からつくる。
・残りが少なくなると値段が高くなる。
・節約すれば、なくなるまでの時間稼ぎになる。
・再生すれば、なくなるまでの時間稼ぎになる。
・節約すれば、二酸化炭素を出す量も減らせる。
・むかしのくらしに戻る。
・二酸化炭素を出さない燃料にする。

 たき火や炭焼きの体験が、単に昔のくらしを再現するためだけに行われるとしたら、もったいない話になります。例えば、だれの手も借りずに、マッチ5本と新聞紙1枚でたき火ができる子どもは、とても少ないと予想します。場合によっては一人もできないかもしれません。
 燃料の特徴をつかんで、火を扱うことは、難しさとともに危険性も学び取ることができます。ただし、時間がかかることを理由にグループで共同作業をすると、上手な子どもにのみこまれてしまい、学び取ることが消えてしまいます。なぜ燃えつかないのかを試行錯誤していく中で、工夫することに気がつきます。そして、煮たり、焼いたりすることで、循環型社会の燃料を目の当たりにしていることにも気がつきます。目に見えない電気やガスを燃料にして調理すると、燃料のありがたさに気づくのはとても難しいでしょう。