学習素材「循環型社会と水」
 くらしの中で電気が使われるようになったのは、たった100年ほど前のことです。長い歴史の中のたった100年ですが、電気のおかげでくらしも科学技術も飛躍的に進歩しました。今となっては、電気が使えるのは当たり前になっています。といいながら、未だに電気の恩恵とは無縁の人々がくらしていることも事実です。
 人間にとってありがたい電気ですが、循環型社会を考えるときにもっともそぐわないのが電気です。電気はひたすらつくり続け、使い続けます。使いたいときに使えるようにため込んだり、必要なだけつくったりすることは困難です。車のバッテリーのように、蓄電池を使えばためることはできます。しかし、必要な量をためるのにかかる費用が高く、寿命も限られているため、一部分でしか使われていません。そこで、ためる方法よりも、安く、安定に電気をつくる方法を考えてきました。
 では、電気をつくるにはどんな方法があるか、主なものをまとめてみることにしました。

汽力発電=ものを燃やして水蒸気をつくり、発電機を回す。
内燃力発電=エンジンを回して発電機を回す。
コンバインドサイクル発電= ガスタービンエンジンを回した排熱で水蒸気をつくり発電機を回す。
原子力発電=核反応の熱で水蒸気をつくり、発電機を回す。
水力発電=水を流して発電機を回す。
地熱発電=地熱でできた水蒸気を使って発電機を回す。
風力発電=風で発電機を回す。
波力発電=波で発電機を回す。
潮力発電=海水の流れで発電機を回す。
海洋温度差発電=低い温度で沸騰するアンモニアを気化したり、水を低い圧力で水蒸気にしたりして発電機を回す。
燃料電池発電=燃料を直接電気に変える。
太陽光発電=太陽光を直接電気に変える。。
人力発電=人間が直接発電機を回したり、ゼンマイ仕掛けで発電機を回す。

調べてみると、けっこうあります。多くの方法があっても、発電機を回すか、直接電気に変換するかの二つにまとめられます。それぞれの方法が、使う量に応じて、いつでも安定に発電できるならば困らないのですが、長所、短所がつきまとっています。
 水に恵まれた日本は、環境負荷の少ない水力発電を頼りにしてきました。使う量が増えるのにあわせてダムをどんどんつくれば、足らないという問題は解決できます。ところが、流域の環境を変えてしまったり、用水を確保できなくなったりする問題点が出てきます。電気は確保できたが、飲み水や農業、工業に使う水が足りなくなると困ってしまいます。火力発電に頼れば、二酸化炭素の増えすぎを心配し、原子力発電に頼れば核のゴミを心配することになります。このように電気をつくることで複合した問題を解決していくことが現実に求められています。
 節約するという考えにたどり着くには、自分が使っている電気の製造元でどれぐらいの二酸化炭素を出し、ゴミ処理にどれぐらいの負担をしているか知りたいところです。つまり、節約でお金が少なくてすむことより、環境負荷にどれだけ貢献しているかが大切になります。目に見えない電気の元をたどっていくと地球温暖化に手を貸していることを理解し、節約を実行することが肝心です。
 さらに、基本的な電気の性質を理解することです。見えないということ、使うためにはつくり続けないといけないという性質です。身近な材料として、乾電池や太陽電池を使った理科の学習が入り口となって電気の性質をつかむきっかけが作れると思います。ただし、電気の極性や流れ方、働きに重きを置いてしまうと基本的な性質は見過ごされてしまいます。
 電気をつくるという観点があれば、木炭とアルミと食塩水の電池や銅と亜鉛とレモン汁の電池などが、興味を引く実験として紹介できます。あるいは、手回し発電機や自転車の発電機も身近な素材です。交流か直流か、プラスかマイナスかといった観点を抜きにして、いずれも限りなく続けて電気を使うことはできないという事実を実感することが大切です。これが電気の重要な性質なのです。
 電力会社は使う量にあわせてつくる量を制御したり、他の電力会社から余る電気をまわしたりして、極力つくり過ぎないようにしています。一方、電気製品を作る会社はできるだけ少ない電気で動く製品を開発してきました。節約をしながら環境負荷を減らす以外に優れた方法は出てこないのです。残された方法は、自ら電気をつくることだけです。
 電気の売買がしやすくなったことと連動して、個人が電気をつくるようになりました。太陽電池パネルは需要が増え、価格が下がっています。私自身、自宅に導入しました。1kwあたり50万円ぐらいかかります。残念ながら補助金制度は打ち切られています。それまでは使う一方だったのに、昼間だけの小さな発電所になると、貢献しているという実感があります。投資したお金を回収するのに15年から20年はかかりますがどれぐらい電気をつくったかを見る楽しみは増えました。そして、真夏の日中、冷房を2台動かしても余るぐらいの発電量ですから、自給自足の楽しみもあります。
 太陽光以外では、昼夜を問わない風力発電の設備が手に入りやすくなっています。ただ、家庭で使う量をつくろうと思うとまだまだ高くつきます。

 見えない電気を相手に省エネルギーを学ぶことは容易ではありません。しかし、理科の範囲を超えたところで総合的に学んでいく優れた素材になりますし、将来を見据えていく材料にもなります。はるか彼方にある情報を手元に引き寄せることができれば、考える材料はふんだんに見付かると思います。