学習素材「循環型社会と水」
 2年前にワンガリ・マータイ氏が来日したとき「もったいない」という言葉が一躍注目を集めました。彼女は、資源の少ない日本に住む人々が長年培ってきた価値ある言葉として、世界に広めようという考えを示しました。また、日本では、7年前に循環型社会形成推進基本法が成立し、その中に3Rが登場しました。様々な場面で断片的に取り上げられることが多く、総合的な認識にまでは至っていないという実感があります。その間にRのつく言葉は次々と提唱されてきました。

Reduce(リデュース)=減らす→捨てるものを減らす→節約
Reuse(リユース)=再び使う→捨てるものを再び使う→節約
Refuse(リフューズ)=→必要としないものを拒否する→節約
Repair(リペア)=→捨てるものを直して使う→節約
Rethink(リシンク)=→必要の有無を再考する→節約
Rental(レンタル)=→必要とするものを借りる→節約
Reform(リフォーム)=→捨てるものを改良して使う→節約

 これらの行き着くところは節約です。「もったいない」につながります。使ったものを再び資源として利用する考えになるのは、次の3つぐらいでしょう。

Refine(リファイン)=→捨てるものを分別する→再資源化
Return(リターン)=→使用後の不要品を元に戻す→再資源化
Recycle(リサイクル)=再資源化

 節約ではなく、循環を理解しようとするとき、水を素材として考えることは、最も身近なものになります。私たちの身体も大半は水からできています。命を育む必要不可欠の水です。つまり、循環の仕組みが自らの身体にあることを知ったうえでなげかけていけば、総合的な認識に発展しやすいと考えました。「水は大切ですから節約しましょう。」「汚れた水を減らすことは環境に優しい取り組みです。」「洗剤を控えることは環境への負荷を減らします。」などの言葉にまとめられてお茶を濁しているのではないかと思うのです。
 「水はどうしてなくならないの?」これは、素朴な疑問です。水の惑星「地球」は水を封じ込め、外に漏れ出さない状態で何億年もぐるぐる巡っています。文明が発生した場所はいずれも水に恵まれたところであり、今も人が暮らすところの多くは、水に恵まれたところです。海に囲まれ、山が多い日本では水で深刻になることがありませんでした。山だらけだから、おいしい水が手に入ったのです。山が多いということは引け目ではなく、誇りとすべきことです。
 水はぐるぐる回るときにきれいな水になる仕組みをいくつか持っています。海水が蒸発するとき、地面にしみこむとき、微生物がいる川岸を流れるときなどです。空気が汚れていたり、水が地面にゆっくりしみこまないようなことをしたり、きれいにする力を超えるような大量の汚れた水を流したりすると水はまずくなり、危険にもなります。
 一方、人間の都合で使いたい水を増やすためにせき止めたり、あふれる水を防ぐために堤防を作ったりしてきました。その結果、ひねったら確実においしい水が出るとは限らなくなりました。水を手に入れると同時に、水をきれいにする生き物を減らしてしまったのです。人間の都合で水の流れをせき止めるとおいしい水をあきらめるしかありません。水は、流れることで水はきれいになり、人の手を借りずにリサイクルを実行してきました。
 また、海水が蒸発して、再び雨となって地上に戻るまでの間に人の手によってゆがめられた出来事も起こっています。封じ込められた水の惑星「地球」で炭素を燃やすと必ず二酸化炭素ができます。動物が呼吸してもできます。二酸化炭素と酸素のバランスをくずしつつあるのが今の状態です。二酸化炭素が増えすぎるとご存じのように地球全体が温室効果をもたらし、地球温暖化という事態を招いています。さらに、二酸化炭素だけでなく、ガソリンや軽油などの燃料を使うことによって窒素酸化物が増え、酸性雨をもたらすこともご存じのことです。
 自らが水を循環している木の扱いも同じことです。必要に迫られて木を切りすぎると水をため込む力が弱くなるのは、よく知られていることです。雨水を受け止める木が山になくなると、一時に水は流れ出し、おいしい水を手に入れられなくなる前に、あふれた水で災害が起こってしまいます。

 このように、地球全体で水がぐるぐる回っていることと、生き物の身体の中で水がぐるぐる回っていることを理解したうえで、問題点を整理します。そして、自分が取り組めることを一つずつ実行に移すことで、確実に貢献できます。経済活動の悪影響の方が圧倒的に大きいことを理由に、してもしなくても変わらないという結論に行き着くのははやまっています。自分のしていることが循環のどこによい影響を与えているか知っていれば、総合的な認識は深まったといえるでしょう。