総合的な学習のゆらぎ5
 総合的な学習の時間の評価方法もゆらぎの一因になっています。教科と同じような評価ができないだけでなく、先生によって文章表現のばらつきが大きくなっています。全国共通の内容に応じた到達目標が示されていないから実践や評価で格差が出ており、教科書を作れば問題は解消するという意見も相変わらず耳にします。
 創設された当初は、形成的評価の考え方を土台に、ポートフォリオの手法を使い、育てたい子どもの力を描いておけばうまくいくと考えられていました。しかし、毎年、内容に応じて育てたい子どもの力を考え、メモ書きを整理、把握することに煩雑さを感じるようになると行われなくなったというのが大方の現実でしょうか。到達目標の設定と評価基準をどのような文言で作ればよいのかが悩みの種だと思うのです。
 そこで、最近注目されているのが、ルーブリックの手法を取り入れた実践研究です。WEB上にちらほら登場するようになりました。ルーブリックの意味は、質の善し悪しを示す数段階の尺度で、その段階ごとの典型的な状態を示すものです。重要な点は、評価者だけが尺度や典型的な状態を理解しているのではなく、被評価者にも理解できる形で示すことにあります。
 教育現場で使われる到達目標は、先生の立場で、先生中心に作られています。同じものを子どもや保護者に示しても、先生と同じ程度に理解するには無理があるでしょう。具体的に学習している内容と結びつきにくいところがあるわけです。
 ところが、ルーブリックによって具体的な指標が分かりやすい文言で示されるならば、先生にとっても、子どもにとっても学びが評価しやすくなると考えたわけです。もちろん、最終的な評定にだけ利用されるものではありません。低い評価に対しては、先生が軌道修正をかけ、どうしたら目標にたどり着けるのか、子どもが見通しを持てるようにするために役立てます。つまり、形成的評価をしていくことに変わりはありません。
 先生にとって問題となるのは、学びの内容に応じて指標を子どもにも分かる言葉で作ることです。これが、簡単にできるならば、形成的評価、ポートフォリオ、ルーブリックというキーワードで評価の問題を解決する手法が急速に広まるはずです。しかし、一般化されるまでには遠い道のりが待ち受けているのが現実です。
 手始めに、到達目標あるいは学習内容から具体的な子どもの姿を文章化する練習を積み上げていくことで、先生も子どもも学びが分かりやすくなると思います。そして、これまで、一方的に例示されてきた観点のつながりも理解できるようになります。
 「関心・意欲・態度」、「思考・判断」、「技能・表現」、「知識・理解」はカテゴリーとして独立した評価観点ではなく、学びの中で相互に作用しています。「知識・理解」に「関心・意欲・態度」が伴えば、「思考・判断」を学ぶことで「技能・表現」が身に付いていくという流れです。「思考・判断」や「技能・表現」が身に付かず、「知識・理解」にとどまってしまうのは、学びがないまま「知識・理解」の伝達、記憶になっているということです。「思考・判断」は学びの過程で最も重視する観点になります。それを支えるのに「知識・理解」は必要不可欠となります。「関心・意欲・態度」を最優先するあまり、多くの誤解を与えたに違いありません。
 例えば、「豆腐づくり」。豆腐の作り方を知っている子どもが、豆腐を作りたいと思っているかどうかは別問題です。豆腐を作るためのコツを身に付けた子どもならば、豆腐づくりの成功体験の確率は高くなってきます。自分が育てた大豆なんだという体験を通した愛着があれば、それを使って豆腐を作り、食べてみたいという欲求に駆られやすくなります。体験という手段が「関心・意欲・態度」を高めるならば、豆腐をうまく作るにはどうしたらよいかという問題解決へとつながりやすくなります。これらをふまえて、豆乳の温度に注意を払い、にがりを正確に測りとって入れるコツを学んで手順通りに実行する子どもの姿をえがくのです。
 単にテクニックとして形成的評価、ポートフォリオ、ルーブリックがまねされると総合的な学習の時間の教科書づくりと同じことになってしまいます。子どもたちが活動する中でどのような学びの姿を見せ、どのような言葉を発することを期待しているのか、先生が基準を言葉で示せるように積み上げていくことです。そうすれば、学習内容を組み立てたり、評価の文言を組み立てたりするうえで自信が持てるようになると思います。

 ルーブリックについては、以下の記事が参考になります。

評価の「客観性」を考える 「基準」「規準」づくりから「妥当性」「信頼性」の追求へ 
京都大学大学院教授 田中耕治 http://www.shinko-keirin.co.jp/csken/pdf/51_03.pdf1