学習素材「石器」
 石器を再現するという学習素材は、社会科に関連する部分が大きいと考える方が多いと思いますが、考古学だけでなく、地質学にも関連しますし、農耕文化にもつながっていきます。鉄文化以前の道具という点では、ものづくりを考えていくこともできます。道具として出土したものは石斧、石包丁、やじりなどがあります。用途の広さ、安全性から考えて石包丁の再現が適していると思います。私が子どものころは石斧を作った記憶がありますが、はずれないように取っ手にくくりつける難しさがあり、危険性も大きいです。
 石器の原料になる石は地域限定で扱うことしかできません。どんな石でも石器になるのではありません。石器として適した石のみが利用されてきたのです。例えば、黒曜石ならば島根県隠岐、長野県和田峠がよく知られています。サヌカイト、カンカン石(古銅輝石安山岩)ならば大阪府羽曳野市、奈良県二上山、香川県丸亀市、佐賀県鬼の鼻山などが知られています。讃岐地方に多くあるところからサヌカイトという名前がついたことはすぐに分かると思います。これらは刃物として使える耐久性のある石です。その値打ちから、人の手によって離れたところに運ばれたことは、考古学が明らかにしてきたことです。
 私は以前、羽曳野市内に在住、勤務していたことで二上山系のカンカン石に出会うことができました。学校の前を流れている飛鳥川には石器になるカンカン石が無造作に転がっていました。学校周辺は大阪層群と呼ばれる堆積層と二上山系の火山岩が交錯するところで、理科の現地学習に役立つところでした。安山岩に混じり込んだガーネットの粒は、かつてサンドペーパーなどの研磨剤の原料として採取されていました。大阪層群の火山灰層は、クレンザーなどの磨き粉になる層が露頭としてありました。一山越えた奈良県の明日香村にも近く、歴史のロマンにあふれるところでしたから、理科や社会科の現地学習がしやすい地域でした。
 石器として使える石が限定される理由は、石を石で砕いたときどのように割れるかで選別してきたと想像するからです。もちろん石の硬さも条件になったでしょう。黒曜石は不規則な形はしていますが、球状に近い形で、たたいて割ると貝殻の形のようにはがれます。石はガラス質で、はがれたところは鋭利な刃物のようになります。割るだけでたやすく石器として使えるものができることから、産地以外に流出していったと考えられています。
 サヌカイト、カンカン石は同じもので、地方によって名前が変えられ伝わっています。たたくと金属的な音がするところからチンチン石という名前もあります。自然状態で採取されるものは不規則な形ながら、板状のものが大半です。中には棒状になったものもあります。板をはがすような向きに石で砕くとはがれた一方が刃物状になります。黒曜石とは異なった割れ方ですが、石器として使うには好都合の割れ方です。
 学習素材としてお勧めしたいのは、単に歴史上の遺物としてみるのではなく、道具の起源を探っていくことができるからです。現在は使われていない道具として再現し使ってみることで、当時の人々の必要感やありがたさが実感できると思います。鉄文化が登場することで、刃物を中心とした石器文化は影を潜めますが、石臼だけは延々と引き継がれていくことになります。食文化、農耕文化を支えてきた道具の文化を体験しながら学んでいくのに適していると思うのです。
 石包丁を作って稲を収穫しよう、魚を料理しよう、木を削ってみよう・・・などの組み立ての中で、手だけでやってみたり、身近にある普通の石でやってみたりして違いを体感することが大切になってきます。ただし、黒曜石は切れ味が大変いいですから、安全面での配慮はぬかりなくしていただきたいと思います。手で刃先になりそうなところをすごくと難なく切れてしまいます。