学習素材「ダイコン」
 店頭では年中見られ、季節感のなくなった野菜です。元々は秋冬野菜として、最も身近な食材でした。冬場の保存食としても活躍していました。それだけに、長年品種改良が続けられ、形と食味が豊富に揃っています。根菜の中でもニンジンと肩を並べてよく使われています。
 学習素材としてお勧めしたい理由の一つとして、葉物より根菜のほうが扱いやすいというよさがあります。収穫してから少々時間が経っても調理や加工に耐えられます。葉物は鮮度が勝負ですから、収穫から調理までの時間が限られます。また、根菜の中でもダイコンは調理、加工の多様性がニンジンより優れています。さらに、先人が保存食として利用してきたよさは、多くの学びを生み出すと思います。
 ダイコンの栽培は長年手がけてきました。大規模生産農家の一番の悩みは連作障害です。白いダイコンの中に黒い斑点が出始めるとお手上げです。自家消費で栽培されている方のほとんどが、同じ場所に連続して栽培しないようにローテーションを組んでいます。3年ぐらいで一回りすれば防ぐことができます。
 農薬を使わないように育てるためには、種まきの時期が重要です。暖かすぎると虫に食べられてしまいますし、虫を心配して、時期を遅らせると生育不良になってしまいます。当地では9月初旬が適期なのですが、残暑が厳しい年には本葉が出始めたころ食害にあってしまいます。殺虫剤を使わないで乗り越えるためには、間引きの時期を遅らせるしかありません。葉の混み具合を見計らいながら、1週ごとに少しずつ間引くのがよさそうです。本葉5,6枚が出そろうころに完了すればいいわけです。
 種まきをして7日前後のころ、間引き菜はカイワレダイコンそのものです。菜飯、おひたしは、最も手軽な調理法です。さらに7日前後、本葉が出そろったものは、味もしっかりしてきます。80日を過ぎると食べごろになり、煮物、おろし、あえもの、漬け物と調理法を競い合うことができます。店頭のダイコンにはついていない葉っぱの部分も捨てることなく調理に挑戦していただきたいところです。
 次に保存食としての加工が控えています。切り干しダイコンづくりです。包丁でもおろし金でもかまいません。道具の数と作業する人数に合わせればいいと思います。私が子どものころは、むしろを広げて、その上でおろし金を使っていました。それだけでなく、菜箸を下敷きに薄切りをして、数珠つなぎになるように切ったものもありました。古老の知恵を探っていけば、様々に工夫を凝らした切り方が見付かるはずです。気を付けていただきたいのは、むしろの代わりにブルーシートを使ってはいけないということです。きれいに洗った網戸のほうが使えます。乾燥を促すために通気性が優れた道具を使う必要があります。
 地域限定の保存食として凍みダイコンというのもあります。作り方は棒寒天や高野豆腐と同じ原理です。夜間の気温が氷点下続きの地域で挑戦することができます。冷凍と解凍を繰り返すことでダイコンの水分をとってしまい、乾燥ダイコンを作ります。これが凍みダイコンと呼ばれているものです。
 いずれにしても乾燥させることで長期保存が可能になります。生のまま乾燥させるか、水煮してから乾燥させるかの違いだけです。

 利用できる畑が十分な広さであるならば、給食や調理実習の食材を部分的に自給自足する試みも可能でしょう。自分で作った安全なものという安心感は何物にも代え難い貴重な体験となります。きっと、ダイコン嫌いも少なくなるのではないかと期待できます。
 私は子どものころダイコンが嫌いでした。今のように辛味の少ない品種はなく、あえたり、おろしたりすると辛味が強くなります。ましてや煮物にすると苦みがぐんと増えてきます。辛味に挑戦したい方は、春蒔きの夏ダイコンです。ピリリときます。