学習素材「黒米」
 米作りは、5年生の社会科学習に関連させて、多くの小学校で体験学習を組み入れています。栽培品種は圧倒的に市場に流通しているうるち米、餅米が多いと思います。少数派では黒米(餅米)、赤米(うるち米)、緑米(うるち米)を手がけているところもありました。一般的に流通している品種は機械を使って省力栽培されています。それをわざわざ昔ながらの方法で栽培すると子どもの興味・関心が持続しにくいという欠点があります。
 そこで、できるだけ機械を使わず、手作業で収穫から消費までを体験できる種類を選択することをお勧めします。特別なものを作っているという意識を持たせ、興味・関心を維持することが可能になります。学習素材としてメリットが多く見いだせる米の中から的を絞ると、黒米にたどり着きます。

 私が黒米を20年来栽培してきた中で学んだことを詳しく紹介しましょう。

 まず、種を手に入れた経緯です。1985年頃、岩手県の「相馬屋」という米問屋さんが朝日新聞に紹介されました。黒米や赤米の話が掲載され、少量の種を無料で提供してくださるという文面につられて20粒ほどの種をいただきました。
 最初の年は種籾を増殖しなければなりませんから、棚田の一部を使って200ccほど収穫できました。赤米は精米するとほとんど色がなくなること、虫に食われやすいということから興味がわかず、やめることにしました。実のところ、赤米は種籾が50ccもとれなかったのです。原種に近い品種という情報を得ていましたから、肥料も農薬も使わずに栽培した結果です。
 2年目は80平方メートルほどの棚田1枚に植え付け、バケツ1杯半ほどを収穫しました。草丈が130〜140cmにもなり、大半が倒伏しました。脱粒も激しく、熟れた籾はすぐに落ちてしまいます。野鳥の餌にもなり、収量は半減してしまいました。田植え、刈り取り、脱穀、乾燥に至るまですべて手作業でした。植え付けた量が少ないから機械を使うほどではないという理由も成り立ちますが、品種の性質として機械との相性はよくなかったです。やむを得ず、最後の籾すり、精米だけは精米機を使ってしました。加減は難しく、かなりの割合で米粒が半分に割れてしまいます。
 そんな手間をかけて、なぜ作り続けたのかといいますと、混ぜて食べたり、おこわにするととても美味しかったのです。興味のある方に食べていただくと、やはり好評でした。当時は近隣で作る人もなく、栄養成分で注目を浴びるということもありませんでした。だれも手がけていないという珍しさも理由になりました。
 現在は、棚田の維持管理が困難になり、川に近い250平方メートルほどの小さな田んぼで田植機を使って植え、干木乾燥後にコンバインで手動脱穀をしています。田植機を働かせるには、伸びすぎた苗の葉を切りつめています。刈り取るときは、草丈が短くなるように高い位置で刈り取っています。
 7年前ぐらいに品種改良された短粒種が出回り、健康食品ブームにあやかってあちこちで販売されるようになりました。草丈も短くなり、機械の掃除だけ手間をかければ省力型の大量栽培ができるようになりました。それでも作付け農家はあまり増えず、市場では高額で取引されています。そんな動向があっても品種を変えずに私が作り続けているのは、原種に最も近い種類を維持するという理由があります。長粒種(インディアカ種)の雲南黒米は、中国雲南省から取り寄せた種籾でした。因みに、私たちが普通に食べている米は短粒種(ジャポニカ種)です。原種に近いかどうかは、籾の先についている芒(のぎ)と呼ばれる毛が長いことで見分けられます。米を作っている人は見ることができますが、米を食べている人は見ることがありません。
 米作りの起源を探りながら身近に栽培されていない米を作ることで、学び取ることがたくさんあることは、上記の紹介でつかんでいただけるのではないかと思います。米作農業が成り立つかどうかはたくさんの要件が絡んでいます。食味、耐病性、倒伏性、作業性、圃場、収穫期、採算性、市場価値などなど。営農を目的としなければ、米作りは数ある作物の中でも、サツマイモについで作りやすいでしょう。手をかける要所を知っていれば、だれでも取り組めます。ただし、水の管理をしないと失敗します。

結実途中、熟れると薄い焦げ茶色

雨で倒伏し発芽米になるのを防ぐため、数株を束ねたところ

普通に刈り取るとこの長さ


 雲南黒米の増殖をしてみたい方、種籾が欲しいという方は下記宛てにどうぞ。
707-0044美作市海田2552 福田昌弘
(80円切手を貼った返信用封筒を送ってください。)