学びの素材案「自分史」
 自分史づくりの発想は、定年退職後の我が身を振り返る作業として一時期流行したことがあります。自費出版の誘いや書き方の手ほどきまで出版されていました。一方、学校現場では、総合的な学習の時間が登場する前から、自分の生い立ちを短いスパンでとらえたり、節目に自分の考えをまとめたりする取り組みがありました。
 例えば、性教育の一環として低学年に位置づけられることがありました。自身の誕生の経緯を探るもので、生まれたときの様子を家族から聞き取ったり、名前がどのような意味を込めてつけられたかを調べたり、母からの手紙を書かせたりするような内容です。これらの取り組みから、自身がかけがえのない尊い存在であることに気づかせようという展開でした。
 健康教育の中に取り込まれたものとしては、成長の記録があります。主に体位の成長記録をまとめるだけに終わっている感はありますが、身体の変化に関心を持たせる程度のものでした。
 6年生の卒業段階で教科を超えた取り組みとして、自分の興味関心に従って「卒業論文」と銘打ったものを制作する取り組みもありました。テーマをきちんと決めてまとめる場合もあれば、卒業記念文集に取り込む程度の簡単なものまで、様々な形のものが登場していました。

 自分史を総合的な学習の時間の素材にしようと思うとき、一番心配することはすべての子どもが興味をいだき、やってみようという気になるかどうかです。何をどのようにまとめたらよいか思いつかないという子どもに対して、適切な事例を示すことができなければいきづまってしまいます。つまり、これまでの学ぶ意欲や興味関心の広がりが少なく、自ら考える姿勢が乏しい子どもたちについては、学んできた経緯が手がかりになります。どこをふくらませて、さらに詳しく書けるかという個人の足跡を先生がつかんでおかないと当を得た助言にはならないでしょう。
 次に用意しておかないといけないことは、自分史を作ることによって何を学び取るかというテーマ、意図が子どもたちに伝わっているかということです。すべての子どもたちに共通することは、人権教育で培ってきた自尊感情(セルフエステーム)になると思います。自分を飾り立てる考え、過大な自己評価の考え、悲観的に見る考え、排他的な考えなどをきちんと見つめていかないと虚構の世界を彷徨うことになりかねません。自分を素直に見つめていく作業を大切にすれば、自ずと異なった価値観の持ち主がいても謙虚に受け止められるという考えに基づいています。
 以上のような背景を準備したうえで、どんな個人のテーマが考えられるかを模索することになります。

・だれもが認めそうな自慢できること
・がんばって続けたこと
・一番うれしかったこと
・一番つらかったこと
・失敗したこと
・将来してみたい仕事のこと
・10年後の自分を描くこと
・ずっと続けたいこと
・○○について自分が考えること
・○○を学習して自分が考えること
・もし○○になったらと思うこと
・出会った人から学んだこと

 具体的なものは避けましたが、単純に思い出や空想を書き連ねることなく、根拠となる事実を大切にしていくことです。これは、唐突に先生が要求しても困難なことで、普段から考え方を練習しておかなければならないでしょう。