学びの素材案「野鳥」
 野鳥の観察は、都市部でも意外とできます。公園や植物園など樹木が生い茂るところには不思議と野鳥が集まっています。理由は簡単で、安全に営巣できる場所があることと、餌になる実が豊富にあることぐらいです。これらの条件から、総合的な学習の時間に野鳥を観察してみようと考える先生方がそこそこいるのではないかと想像します。
 しかし安易な思いつきの観察は安易な方向に展開していくのではないかと心配します。野鳥を観察するといっても観察用の双眼鏡や望遠鏡がいるのではないかと道具立てに走ってしまったり、鳥の名前が分からないから専門的知識を持っている野鳥観察グループに教えを請うことに先走ったりするのではないでしょうか。
 少なくとも先生方は鳥の名前を知らなくとも、観察とは何をすればよいかということぐらいは理解しておいてほしいと思います。眺めるのは観察ではありません。観望です。観察するには、視点を持つことが一番です。ただし、必ず視点が用意されていないと観察にはならないというわけではありません。眺めているうちに視点を見いだす疑問がわき起こることもあります。野鳥を見て、野鳥がいるんだと納得して終わるようなことでは観察は広がりません。
・種類は何か。
・名前は何というか。
・体の色の特徴は何か。
・見つけた場所はどんなところか。
・鳴き声は聞こえたか。
・餌は何だろうか。
・群れになっているのだろうか。
・なぜここで見つかったのだろうか。
・生息範囲はどうなっているのだろうか。
・敵になる他の動物はいないのだろうか。
・他にどんな野鳥が見つかるだろうか。
・嘴の形はどうなっているだろうか。
・問題点として何が見つかるのだろう。
・他の場所でも見つかるだろうか。
 少なくとも野鳥を観察して楽しんでいる方は、珍しい鳥と出会いたい、きれいな鳥に出会いたい、などのマニアックな思いやコレクターとしての好奇心を持っています。渡り鳥の種類や数を調査して、野鳥保護や環境保護の活動をされる方もいます。また、絶滅危惧種の生態を把握して、野鳥保護や環境保護の活動をされる方もいます。どんな視点で観察して活動されている方なのかを依頼者である先生はつかんでおかないと、野鳥観察の方向性は見えてこないだろうと思います。
 さらに追求していく問題や子どもたちがつかみそうな課題にまで思いを馳せるとかなり難しい要素が絡んできます。
・野鳥と食物連鎖、種子の移動と環境変化の問題。
・渡り鳥の飛来状況と生息環境の変化の問題。
・野鳥の農作物被害に対する防鳥の工夫。
・水鳥と釣り具の被害に関する現状と解決方法。
・群れをなす野鳥の糞害と繁殖数の変化。
・散弾銃の鉛害の実態。
・益鳥と人間の生活に依存する野鳥の実態。
 お分かりいただけると思いますが、野鳥観察を発展させて、追求を広げ、深めることは一筋縄ではいきません。子どもたちは知識不足から行き詰まることの方が多いでしょう。
 もっとも身近な渡り鳥にツバメ,コシアカツバメがいます。農作物の害虫が増えるころに飛来して、繁殖するので農業者にとっては役に立つ鳥と考えられています。しかし、子育て中の糞害には、持ちつ持たれつの思いから大目に見ています。ツバメがなぜ人家に営巣するかというと、単に身の安全を守ることしか思い当たりません。唯一ねらわれやすいのはアオダイショウなどのヘビだけです。だから、人の出入りする軒下を選ぶわけです。
 実例です。我が家の2階の軒下にツバメが巣を作ったのは1年だけ。日中の平日、人の出入りが多かった年だけです。翌年、巣立ったツバメが営巣しようとしましたが、スズメに乗っ取られて断念。日中の人の出入りがほとんどなくなった現在は、偵察だけで、巣作りの動きは見せません。
 野鳥観察は安易な入り口に使わないことが賢明です。