学びの素材案「家庭科」
 家庭科の担ってきた内容と変遷は、他の教科には見られない生活に直結した時代の変化を柔軟に受け入れてきました。小学校5,6年の内容からは、さほど大きな変化を見いだせませんが、中高では男女別内容から、共修へと大きなうねりがありました。技術家庭科という教科名から、技術面を男子が、家庭面を女子がという役割分担的な発想で分けていました。木工、金工、電気などの物づくりを学習している間に、調理、被服などを同時に分かれて学習していたわけです。家庭生活の中の役割分担を学習内容で固定していた考えは、さすがに時代を先取りしたものにはなっていませんでした。男女共同参画が行政主導で影響を与えることと前後して、改変されてきた経緯があります。
 さて、まえおきが長くなりましたが、家庭科の役割を総合的な学習の時間に取り込んでいく場合、確実にどこの学校でも、どの校種でも位置づけられるとは限らない前提があります。従って、生きるためには避けて通れない分野としてテーマの枠組みに配慮する規制は必要になると思います。
 今回は、衣と住が残っていますから、衣に関する素材を探っていくことにしました。衣という言葉から連想するものとして、被服、縫製、服飾デザイン、保温、吸湿など技能的な内容と機能的な内容が思い浮かんできます。実生活では、ほとんどが作られたものを着こなすだけで、穴が空けば捨てられ、縫製されたところがほつれると繕うかもしれない、ボタンがとれるとつけるぐらいになっていると思います。ここまで商業ベースで商品が用意されると衣に対する関心は機能的なこと、デザイン的なことに限定されてしまいそうです。
 衣に関して他の教科との接点は、社会科のごく一部として服飾の歴史をひもとくことが考えられます。
・ズボンはいつ頃どこの国で登場したのだろうか。
・着物の左前には何か意味があるのだろうか。
・ボタンシャッツの女性が左かけ、男性が右かけになったのはどうしてか。
・編み物と織物の起源はどこなのか。
・糸の歴史はどうなっているのだろうか。
・染織の歴史はどうなっているのだろうか。
・ボタン、ホック、ジッパーはだれが発明したのか。
 社会科でもう一つ関連することは伝統工芸としての染織があります。地域教材ですから、発展的に草木染めへとつなげることはこれまでの実践でもありました。
 機能としての保温、吸湿は理科的な要素があるというぐらいで、直接的な教材としては登場しません。また、デザインの面では図工の色の組み合わせに関連するぐらいでしょう。図工では、作品づくりの素材として扱われることの方が身近になります。
 別の観点として、リサイクル、リユースの材料としての衣は、あまり注目されていないと思います。廃品回収で扱われる古着が一体何に使われているかさえ、知られていないのが現状でしょう。発泡ウレタンに押されて用途がますます減っています。リユースも高級ブランドものを除いて、大量の古着のごく一部がフリーマーケットで流通する程度でしょう。
 伝統的なリユースはパッチワークです。和服がすたれたことで受け継がれている現実を見ることはなくなりましたが、かつては役目を終えた和服が布団や座布団の表地に使われていました。マイナーな存在ですが、クッションの表地やテーブルクロス、袋物のパッチワークは趣味の世界で続いています。

 食とともに最も身近な衣の文化をテーマに学ぶことは多様な価値観を認めることにもつながっていきます。衣に対する意識の変化が変遷していることと伝統を維持すること、あるいはステータスに使われてきた異文化の衣を合理化することが今後めざしていく方向になると考えます。日本の気候風土に合った衣文化の創造は進化の途中です。なぜか、日本では和服が民族衣装になりませんでした。