学びの素材案「米」
 教科を横断するテーマとして「米」があります。今回は、教科のどの部分から総合的な学習に展開していけるか考えてみました。折しも元同僚が勤務する付属学校では、カリキュラムの再編成が進んでおり、家庭科は総合的な学習の中に取り込まれたと話していました。
 「米」はこれまでの教科書でずっと取り上げられてきました。主に食べる食材として、自給率も高い作物であり、生活の中で切り離せない素材になっています。まず、4年生の社会科では、農家の仕事として米作りが紹介されています。5年生の社会科では、米の生産の特徴的な地域での工夫を学習しています。5年の理科では、単子葉植物の発芽、成長の学習があります。6年の理科では、デンプンの消化を確かめていく学習で、米の素材が登場します。家庭科では、炊飯、試食という過程が組み込まれています。ほとんどの子どもたちに馴染みがある「米」という素材は、教科書の中で繰り返し断片的に登場しています。
 しかし、教科を横断して「米」という学習素材を総合的にとらえることは、これまでなかったわけです。育てる、世話をする、収穫する、加工する、調理するという、生産から消費のサイクルを繰り返して生きながらえたことを総合的に学ぶ過程は学習指導要領にはありません。それぞれの子どもたちが、学習したことを統合する力に任せてきたといえます。50年前には多くの子どもたちが生産から消費の過程を体験する機会を生活の中で得ていました。ところが、米作りに参加する必要性が少なくなった現在の子どもたちに学びを統合できる場を設定する必要感が生じています。その場が総合的な学習の時間です。
 私が考える流れは、4年生の社会科の学習をきっかけに、生産の追体験を仕組むことから5,6年生の学習を整理するというものです。米を育てるきっかけが、5年生という実践例はごく普通に見られます。それよりも、4年生でまず生産過程の体験をして、その中から米作りの問題点を探り、個々の実践課題をつかませようというものです。もちろん5年生で生産体験をして、6年で生産と消費のサイクルを学ぶことも想定できますが、発展的に取り扱う時間が限定されたり、失敗してもやり直しがきかなかったりします。
 借り受ける田圃は5アールぐらいが適していますが、広すぎると機械に頼ることが多くなってしまいます。5アールあれば、最低250kgの収量が期待できます。40人の学級が取り組んで、1人あたり8kgの収量になります。米の品種はうるち米の方が炊飯加工には向いています。もち米は餅つきができるからという理由だけで採用されていますが、調理の汎用性は制限されてしまいます。さらに、うるち米の中でも、市場に出回る優良品種は、倒れやすい、栽培管理が難しいという欠点がありますから、比較的容易に栽培できる「日本晴れ」など10月初旬に収穫できる品種が適しています。
 つぎに、学区内の米作りをしている方に指導を仰ぐ際、気をつけたいことがあります。現在の手順ではなく、機械化が進んでいなかった時代の機械を持っておられる方に手作業中心の米作りを教えていただくと学びの場面は多くなります。どうしても機械に頼るのは脱穀、籾すり、精米だけです。
 成長過程での学習は5,6年理科の学習課題がそのまま適用できます。6年家庭科での調理については、教科書どおりに進めないことです。炊飯器でご飯を炊いて実習したことにするのはもってのほかです。少なくとも火おこしから始めるぐらいの余裕が欲しいところです。炊飯は普通の鍋でも、飯ごうでも、竹でもいいです。これらの炊飯道具を使うことで、家庭科で学ぶ内容はより明確に達成できます。よくあるパターンとして、グループで一つだけ炊飯道具を用意し、共同作業ですませる方法があります。こればかりは、炊飯の過程を体験的に学ぶのにふさわしくありません。自分で自分のご飯を炊飯してみるという過程がなければ、将来使える知識にならない子どもが出てしまいます。
 以上のように、理科、社会科、家庭科で扱う時間と総合で扱う時間を合わせることによって、これまでばらばらに行われていた学習は、より中身の濃い学びとして再編成できると考えられます。体験や実習は1回限りで成功しても、失敗しても、したことにして完結してしまうことが多いため、学びが連続しにくいという欠点があります。横断的な総合学習では、うまくいかなかったら、なぜうまくいかなかったかを学んで再挑戦できる場を設定することができます。