一斉と個別
 一斉指導は、多くの場面で普通に行われている指導形態です。しかし、簡単、確実にだれにでもできる指導形態ではありませんから、様々な指導技術が延々と語り継がれています。ここでは、一斉指導の対極にある個別指導を主に考えていきたいと思います。
 個別指導というと一斉指導の中での個に対応した指導法と解釈されている先生方が多いと思います。机間巡視をして個人的に指導を加えるのは、指導法の話です。問題にしたいのは指導形態としての個別指導です。子どもの立場でいうならば、みんな一斉に同じことをする一斉学習の形態に対して、個人個人が自分のめあてや課題にそって異なることをする学習形態です。この違いをまず理解していただかないと先に進めません。
 総合的な学習をきちんと進めてきた先生ならば学習形態としての個別指導の意味は受け止めていただけると思います。ましてや、このコラムの愛読者の皆様にとっては今更何でこんなことが話題になるのかと不思議に思われるかもしれません。子どもたちが自分の課題にもとづいて学習しているときの基本的な学習形態は個別です。自分の課題なのですから、他人といっしょにする理由は見あたらないわけです。偶然課題が同じであれば、二人、三人というグループでの学習があるかもしれませんが、あくまで自分の学習活動が主になります。
 このことは教科学習の中で生かされる学習形態です。逆に、総合的な学習が始まる以前に個別の学習形態を実践されてきた先生は、迷うことなく取り入れてきた方法です。あるいは主体的な課題解決学習の実践を教科でされてきた先生もすんなりと総合的な学習の時間に取り入れることができたと思います。はたまた、複式学級でわたりの授業を苦心してきた先生方も取り入れてきた方法です。一斉指導のよさと個別に学習する子どもたちに対応するよさを実践によって確かめてきた先生方にとっては当たり前のことになっている指導形態です。
 子どもたちが課題解決をしながら、めあてにそって個々に学習していれば、先生は学習の進み具合を確認しながら、遅れがちな子ども、いきづまっている子どもに、子どもが必要としている支援を与えることができるはずです。一斉学習の中で個別に支援をしているときは、先生が一斉指導のために必要な情報を集めるのがやっとのはずです。ひとたび、つっかえている子どもに個人指導を始めるならば、他の子どもたちを切り捨てざるを得ない状況しか生まれません。子どもの学習状況を的確につかむ力が先生にあるならば、即座につまずいている子どもたちを集めて、新たな手だてによって個別指導を加えることができます。
 この指導形態の違いを理解していただくためには、先生が子どもの進み具合や習熟の度合い、あるいは課題解決後の新たな課題設定の取り組みなどに対して、子どもに提示すべき材料が準備されているかどうかで判断して欲しいと思います。一斉指導の形態では、この部分が先生の説明と子どもたちとの問答で終わってしまいます。一人の先生が個々の子どもに均等にかかわることは不可能ですし、能力に違いのある子どもに均等にかかわることは意味がありません。支援が必要な子どもに目を向ける余裕を生み出すためには、子どもたちが個別に学習する形態を身につけることが必要不可欠であると私は主張し続けたのです。
 できる子どもにはよりレベルの高い問題を示し、さらなる追求課題を持つよう助言しなければなりません。できる子どもほど自力解決が促せます。反対に理解の遅い子どもほど支援を必要とするのですから、その子にとって効果のある手だてを用意しなければなりません。それが個人差に対応するということです。そして、一斉指導の中でいう個別指導とは意味の違う個別指導をするということです。
 ちまたでは少人数指導のための加配が、T.T.指導の加配に引き続いて注目されています。思惑通りに少人数指導が効果を上げるためには、一斉と個別という指導形態の持つ意味を理解しなければ実現しないでしょう。総合的な学習の時間でも算数でも、どこでもいいのです。実践して自分のものにしていただきたいと思います。