総合的な学習と生きる力5
 話が難しくなってきましたが、これまで取り上げた思想交換能力、情報構築能力、人間関係調整能力を提案することで、従来の学力観を作り直すことを試みてきました。これでほぼ網羅できるのではないかと思いを巡らしていました。しかし、どうしても第4の力を入れざるを得ませんでした。それがマネジメント能力です。これまた適当な日本語がありません。管理、支配、経営と広辞苑では翻訳されていますが、多くの場合は管理、経営、運営の意味合いで使われることが多くなると思います。いずれにしても、正しい意味で受け止められず、狭義に理解された束縛、抑圧、命令の意味合いを含む言葉になるおそれはあります。本来の意味を理解したうえで、マネジメント能力は個人個人の意思を処理していく能力として生きるために必要な能力だと考えます。
 一般的にマネジメント能力は組織体の中で論議されてきたことです。組織を管理し、経営していくためのトップの能力を問題にしてきました。しかし、必ずしも人間が集まった中でのみ有効な考えとはいえません。例えば、自己管理というような場合を想定することもできます。対象を見据えた管理能力ですから、自分という対象を管理するわけです。
 そうなると、マネジメント能力は、人間関係調整能力と重なる部分があるのではないかと指摘されそうなところがありますが、マネジメントしていく相手は人に限りません。情報や考え、物も含みます。マネジメントの重要な部分として、判断したり、決定したり、選んだりする中で、計画的に実行したり、問題を解決したりすることがあります。自分の考えとしての意思を形作っていく過程で有効に使える力です。
 それなら、情報構築能力と人間関係調整能力を合成したようなものではないかという意見も出てきそうです。生きていくために自分をマネジメントし、自分と関わるすべての対象をマネジメントすることをねらっています。
 よりよい生活をしていくためにふつうに行っていることなのです。収入と支出の管理、生活習慣の管理、スケジュールの管理、衣食住の管理、余暇の管理などが正常に行われていれば、快調でしょう。もし、問題が起きた場合でも、危機に対する管理ができていれば、問題解決は容易になるはずです。うまくいってない場合は、いずれかのマネジメント能力が機能していないと判断できます。
 では、マネジメント能力は総合的な学習の中でどのように展開されるか見ていきましょう。一番大きな働きをするのは、学習の全体を把握するときです。しばしば指導案で「見通し」という言葉が使われると思います。情報構築したものを元に自分が取り組んでいく概要をつかむ力があれば、先生の支援は最小ですみます。「活用」という場面でもこの力は発揮されるはずです。取り組みを広げていくとき、調べるとき、人材を求めるとき必要とされる力です。さらには、コミュニケーションをとる前段階でもこの力は要求されます。つまり、自分の持っている能力を調整して、ありとあらゆる場面で発揮するように自分を操縦することになります。
 思想交換能力、情報構築能力、人間関係調整能力を統合していく能力としてマネジメント能力を考えました。次回は、従来使われてきた様々な能力をまとめて、4つの能力に包括させていきたいと考えています。