総合的な学習と生きる力1
 「生きる力」から、ある出版社の道徳副読本を思い起こしてしまう時期もありましたが、総合的な学習の時間が創設されてからは、教育改革の目玉的なスローガン?キャッチコピ−?として登場しています。分かりやすそうで分かりにくい、新しそうで新しくない・・・。そうなんです。言葉が変わっただけで、根底に流れる意図は変わっていないのではないかと私は考えています。ところが、「生きる力」をどのように解釈し、説明するのかという点でもあまり変化はみられないように思います。出口の見えない解説が氾濫していると言ったら言い過ぎでしょうが、総合的な学習の中にあるのではなく、総合的な学習を包括している言葉であるということだけは明らかです。

 たびたび聞かされている「生きる力」の出発点は中教審答申です。次のような3点に集約されます。
・いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力
・自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性
・たくましく生きるための健康や体力
いかにも抽象的でつかみどころのない現実離れした言葉が連なっています。
 別の視点として、水越敏行・村川雅弘両氏の著書の中に出てくる「生きる力」は少し具体的な能力として示されています。
・問題発見・解決力
・コミュニケーション力
・ネットワーク力
・対象に対する内発的な興味・関心
・対象に主体的にかかわる力
・情報活用能力
・自分に対する自信やよさの発見
 また、海外の動向の中では、イギリスの総合学習と情報教育の動向 大阪教育大学助教授 田中 博之氏の紹介記事が参考になりました。詳細は↓http://www.nichibun-g.co.jp/joho/it-edu/001/i012326.htm
 この中には、総合学習で習得すべき学習技能が具体的に示されています。環境教育というカテゴリーを例に取っていましたので、引用させていただきました。
1 コミュニケーション(communication)
・異なるメディアを通して,環境について考える視点とアイデアを表現する
・環境問題について明確かつ簡潔に議論する
2 数的処理(numeracy)
・環境に関するデータを収集,分類,分析する
・環境に関する統計を解釈する
3 調査研究(study)
・多様な情報源から,環境に関する情報を検索,分析,解釈,評価する
・環境問題についてのプロジェクトを組織,計画する
4 問題解決(problem-solving)
・環境問題の原因と結果と明らかにする
・環境問題について,論理的な意見を構成し,バランスのとれた判断を行う
5 対人的,社会的関係(personal and social)
・他者と協力して働く
・環境についての個人および集団の責任をとる
6 情報テクノロジー(information tech-nology)
・環境についてのデータをデータベースに入力する
・コンピュータを用いて環境に関連する調査研究のシミュレートをする

 「生きる力」だけをお題目のように唱えていても、日常生活の中で育て、鍛え、身につけていく力はなかなか見えてきません。「自ら」「主体的」「協調」「思いやり」「豊かな」「たくましく」といった言葉は情緒的、情感的にしか受け止められないでしょう。「興味」「関心」も最初から備わっていたり、培ってできたりするような性質のものではないでしょう。その点、イギリスの目指している方法は分かりやすく、目的を達成するためには技能を育てていくことがはっきりと示されていますから、先生も子どもも見える形で評価できそうです。水越敏行・村川雅弘両氏が示した「コミュニケーション」「問題解決」「対象に主体的にかかわる」「情報活用」などは、イギリスで行われていることと重なっていきます。
 今回だけで「生きる力」を具体的に紐解くわけにはいきません。学習指導の中で基礎的、基本的なことは何かという問題と同様、諸説ふんぷんになって、結局よく分からないではすまないことです。回を重ねて私案になるか、それとも思案になるか、一つずつ考えていきたいと思います。