里山での実践
中国地区のへき地教育研究大会で広島県比和町を訪れました。総合的な学習の研究をされている中、いくつかの発見がありましたので、紹介します。
 「里山」という言葉を何気なく使っていましたが、講演された比和町在住の研究者のお話では、昔からある言葉ではなく、市民権を得て数十年にしかならないことが分かりました。お話しされたとおり、確かに第1版の広辞苑には載っていませんでした。生活のために自然を利用し、自然と共生してきた集落が「里山」ということです。燃料としての薪や炭は山から切り出し、農業生産のたい肥づくりは下草刈りをして利用したようなところです。
 こちらでは、吾妻山という砂鉄を産出する山に人が住み着き、砂鉄を採るために池を作って流水で選別し、砂鉄からたたらを作るために炭焼きをし、砂鉄をとった跡地に水田を作るという一連の地域の歴史を掘り起こす中で、学習の積み重ねができていました。学校裁量の時間を使って、総合的な学習が始まる以前から地域学習を進めている実態は、へき地、複式の小規模校では珍しくありません。「ふるさとを愛する」子どもを育てるという目標は、地域と連携していく過程で登場する必然性があるわけです。
 他校に見られない部分は、「里山」に備わっている地域の特性をもとに学習素材を検討し、教材化していることです。「素材」を「教材」化するという研究の視点を掲げていますから、地域素材が学習として成り立つところまで積み上げているところがすばらしいと思います。学習素材が個に対応した形で提示できるようになると教材に変わります。学ぶという視点でとらえると、「教材」と考えるより「学習材」のほうがいいのではないのかというのは以前主張してきたところです。
 「里山」に付随するもう一つのポリシーとして「豊かな自然」というのがあります。この点についてもきちんと問題を掘り起こすことが続けられていました。自生していた「オグラセンノウ」「ヒゴタイ」が絶滅危惧種である情報は町内の自然科学博物館から伝わっていました。かつては当たり前のように自生していた植物も、里山の生活実態が変化することで、自生できなくなっています。動植物の生態の変化は生活様式の変化にともなって大きな影響を受けていますから、「豊かな自然」に潜んでいる問題点は先生が地域を知ることで見つかりやすいと考えられます。絶滅危惧種と環境問題は子どもたちにとっては重い課題になりそうですが、栽培活動を通して学びが深まっている様子は伝わってきました。

 へき地、複式の小規模校でしかできないのか、どこでもできることなのかという疑問がふとわいてきます。地域の特性や歴史は人が住むところならどこにでもあります。人が集まって住むことで村ができ、人が相互に依存し合うことでより多くの人が集まって町になったいきさつがありますから、地域の差がやりにくさの原因ではないことはおわかりいただけると思います。行き着くところは個に対応した課題解決的な学習が仕組まれているかどうかの違いだと私は考えています。