外部からの提案の検討5
財団法人 都市農山漁村交流活性化機構 発行 農林漁業体験による総合学習ガイド

 題名のとおり、農林漁業体験に限定した200ページあまりのガイドブックです。
 第1章では、食糧危機、農林漁業の後継者不足を中心に問題を提起しており、この分野の体験学習の必要性を求め、指導要領で示された枠組みにどのように位置づけられるかを展開して分かりやすく解説しています。
 これまで私が取り上げなかった「ゆとり」「安らぎ」「いやし」という言葉が気になっております。特に「ゆとり」は指導要領で20年来引きずってきた行政サイドの課題です。いくら改革をしても現場では「ゆとり」の実現は望めないことで、お題目に過ぎません。いじればいじるほど「ゆとり」がなくなってきていると考えているのは私だけでしょうか?
 「生きる力」というキーワードは否定しませんが、「ゆとり」は異質なものとして、果たして学校教育の現場で取り組めるのかという疑問があります。そもそも「ゆとり」なるものは組織的に与えていくものではなく、個人個人が生き方の中で「ゆとりと充実」を創り出すものと考えています。8時間労働が6時間労働になったら「ゆとり」が保障されると思っている人は単に打算的に「らく」をしたいと勘違いしているのではないでしょうか。「ゆとり」=余暇ではありません。
 第2章は、酪農体験、林業体験、稲作体験、河川漁業体験、養蚕業体験、アイガモ農法体験を取り込んだ各校の実践事例が紹介されていますが、ここではふれません。
 第3章は、モデルプラン「ブナ原生林での自然体験と環境学習」「南房総での花摘み取り体験学習」
の二つが紹介されています。前段に農山漁村での「総合学習」計画作成の手順と題して、体験学習プログラムにたどり着くまでの考え方が述べられています。
 「森のはたらき」をキーワードに環境問題や水資源問題を考えることは可能なのですが、身近な生活と結びつけることを考えておく必要があります。直結させなくても水という接点はありますから、下流域にすんでいる子どもたちほど源流探検をしていけばつながりやすいと考えられます。体験学習プログラムが中心の事例のため、体験後の取り組みもしっかり見通しておかなければなりません。感想に終わらせないよう、子どもたちの課題が明らかになっていくことを求めたいところです。
 体験学習はそれだけで行事的に完結してしまいやすい性格を持っていますから、実施したら終わりとならないような前後策の方が大切になります。そのあたりが十分解説されていませんから、選択肢の一つになる学習素材だと考える方が無難です。
 もう一つの花摘み取り体験学習の方は、「花づくり」をキーワードに特徴的な地域が体験学習にあげられています。町外から出向くという形になると社会科の実地見学的な要素が強くなり、接点を単に「花づくり」だけに求めることは苦しいところがありそうです。花卉産業は地域の特性を生かした営農集団で行われているところが多いですから、子どもたちの実生活のどこに接点があるか、あるいは教科の学習のどことつながるかを考えておかなければなりません。
 第4章は、全国各地の農林漁業体験施設の紹介と自然体験プログラム105が示されています。学校周辺で体験学習の計画が立てにくいところや計画の中に意図的に入れられるところでは情報源として活用できると思います。ただし、下準備として、現場に足を運んでどのような展開になるのか検討することは大切にしていただきたいところです。決して、手頃なプランだと期待して飛びつくようなことはしない方がいいでしょう。