背中の効用
 小さい子を背中にオンブする姿があまり見られなくなりました。コンパクトな折りたたみのベビーカーや車で移動することが多くなったことも原因でしょうか。家事の労働時間が電化によって短縮されたことも影響しているでしょう。また、オンブする場所も時代とともに変化してきました。顔を見ていられるからと抱っこ状態にする人が多くなったのではないでしょうか。あるいは短時間だから抱っこのほうが手軽でいいと考える方もいるでしょうか。
 ところが学校でしゃがんでいると背中に寄りかかってくる子どもたちはオンブの体制になっていることがしばしばあります。さてさて、この変化はどっちでもいいと見過ごせるものなのでしょうか。もともと背中にオンブしていると両手があいています。手が使えますから、何かと時間にゆとりがなかったころは、炊事、洗濯などの家事をこなすのにどうしても必要だったわけです。子どもをオンブしてまで家事をしないと片づかないという事情がなくなった今、その姿が見られないのは当然かもしれません。実は、単に親の都合でオンブが利用されただけではなく、気づかないでいた効用が隠されているのです。
 背中のぬくもりというのは、オンブしている側の心の安心感をもたらすという効用があります。情緒が不安定になったり、不安な状況に陥ったりしたときに手のひらを背中にあてがうことで安心感を持って落ち着いていくようになります。落ち着きのないとき、気持ちが高ぶっているとき、不安になっている病人と話すときそっと手のひらを背中に当てていると気持ちを落ち着かせて話をすることができるようになります。他者のぬくもりを背中に感じることで、精神的にリラックスするようになります。この手法は、教育相談の技術面での講習にも登場する方法です。
 背中にぬくもりを感じることでオンブしている側はリラックスし、背中にオンブされることでぬくもりを感じている子どもは安心感を得ています。言葉とともにスキンシップが幼児期には必要ですから、オンブは最も簡単な方法だといえます。